丸山 危険が多い外勤はベテランにお願いします、後世を育てる仕事は若い衆でやりますから、と。

中瀬 まさにそんな感じですね。人間でそんなことをしたら「人でなし!」と罵られそうですけどね。老アリは死をも辞さず、率先して危険に飛び込みます。これはスズメバチも同じです。若いうちは巣の中で幼虫の育成などを担って働いているのですが、歳をとるごとにだんだん外に出るようになって、攻撃性も毒も強くなっていきます。

養老 人間なんて逆で、若い人から兵隊にとっていくからね。あれはきっと体力の問題はもちろん、家族があると、生き延びたいと思って勇敢に戦わないからだよ。守りに入っちゃうから。

書影『昆虫はもっとすごい』(光文社)『昆虫はもっとすごい』(光文社)
丸山宗利、養老孟司、中瀬悠太 著

丸山 ああ、そうかもしれません。あと、社会的な集団で動くハチやアリは、単独行動する虫に比べて相対的に命の価値が軽くなるので、ケンカっぱやくなります。自分が傷ついても死んでも、ほかの仲間が勝手に子孫を残してくれますから。一方で、単独行動しているやつは、自分が死ぬとそこで自分の遺伝子が終わってしまうじゃないですか。「子孫を残す」という生き物にとっての至上命題を達成するためには、まずなにより大切なのが自分の命。死ぬほどの争いは自然と避けるようになります。比較的平和主義だと言えるでしょう。

養老 だから、スズメバチの巣に人間が攻撃するとちゃんと反撃してくるし、一方で単独行動派のハンミョウなんかはまずやり返してくることはない。巣穴をつついても、奥に逃げ隠れるか、走って逃げていくかです。ちなみに、ハンミョウは人間から逃げるときにちょっと飛んではすぐにこちらを振り返るように見えるので、「ミチシルベ」の別名があって可愛いんだよね。