養老 自分の母親を殺されたとも知らずに。もう、さながらノルマン王朝のヴァイキングだよな。

中瀬 資源を奪って、結果的に国を乗っ取るというやり口はそっくりですね。奴隷を使うのも集団で一気呵成に攻め込む戦法も、戦争さながらですし。でも、あの強奪作戦、なぜ暑いときに限定しているんでしょうね。

丸山 不思議だよね。

敵を知ることは勝利への第一歩
虫たちもムダな戦いを避ける

養老 サムライアリは、戦い方としてはかなり物騒なほうだよな。

丸山 ええ。もう少し高度な進化を遂げた仲間同士の争いだと、あまり直接的なケンカはしないようになるんです。お互いに怪我をしてしまったり、死んでしまったりするのは得策ではありませんから。だから、できるだけ直接攻撃を食らわないよう、最初は威嚇だけする種もいます。威嚇音を出すハシリハリアリやオオアリの仲間が代表格で、人間で言えば「ミサイル発射するぞ」「そんなこと言うなら経済制裁するぞ」と牽制し合うような感じです。お互いに戦いたくないから、威嚇しながらも撤退する。結構、高度でしょう?

中瀬 あと、いわゆる諜報戦もありますよね。

丸山 そうそう。実は昆虫は無謀に突っ込むことはあまりなくて、だいたい偵察を行います。相手の力量を予測して、巣の大きさ、相手の数なんかを見ているのでしょう。それで、「こいつには敵わない」と思ったら、ほかに勝てそうな巣を探す。家に上がってきて1~2匹でウロウロしているアリなんかも、典型的な偵察部隊です。ただ、人間と違うのは、そういう捨て駒みたいな役割だからといって必ずしも下っ端のアリが担うわけではないこと。

養老 働きアリはみんな平等だからね。労働者階級は、みんな一緒。

丸山 はい。ですから、エサを狩りに行くついでに、たまたま敵の縄張りに通りかかった働きアリが敵陣の巣を見に行く、という感じでしょう。

若い個体は巣穴で内勤し
老兵が最前線で体を張る

中瀬 たしかに働きアリは平等ですが、命の重さにはランクがあります。生まれてから時間が経っているアリ、ありていに言ってしまえば老い先が短いアリは、相対的に価値が低いと見られます。ですから、危ない仕事を担うのは主に老アリですね。