仕方がないので部下は勝手に考えて仕事をすることになるのだが、そうすると、「誰がこんなやり方をしろと言った?」と嫌味を言う。そして「ダメだし」した後に、初めて自分のアイデアを披露するのだ。
これは「ダメだし文化」に染まってきた昭和世代の悪しき伝統だ。相手よりも自分のほうが優位だということをわからせるために、「何事もまずは経験だ」と言ってやり方を教えないのである。失敗させ、一度恥をかかせてから、上から目線で仕事を教える。
「私が新入社員だった頃は、いきなりお客様のところへ行かされたもんだ。上司は何も教えてくれなかった。泣きそうになりながらお客様のところをまわったんだぞ」と過去のエピソードを話して聞かせるのだ。
そして、「だけど、あの修業時代があったから、今の私がある」と、過去を正当化するマネジャーは多いが、そんな修業時代はないほうがいいに決まっている。
自分が苦労したからといって、部下にも同じ経験をさせる必要はないのである。
若い部下の成長を遅らせる
ダメ出し版「経験学習サイクル」
「とりあえずやれ」「まずは手を動かせ」と指示し、後からやり方を披露するアプローチは、部下の成長に悪影響を及ぼす。
「後出しジャンケン」のような指導は、経験学習サイクルの本質を見失わせるからだ。
このサイクルは、(1)経験すること、(2)多面的な視点からの振り返り、(3)新しい考えや理論の創造、(4)それらの試行、という4つのプロセスから成る。
しかし、実際には若い人々がこのサイクルを適切に遂行するのは難しい。特に、新しい考えや理論を作り上げることは非現実的である。マネジャー自身も難しいはずだ。
たしかに、今の世の中はノウハウであふれている。しかし若者に仕事を任せるときに、「まずは経験。ダメ出しは後」を繰り返していると、部下は「でも」「だって」「どうせ」といった、「D言葉」を使うクセがついてしまう。
「でも無理です」
「だっていつもそうじゃないですか」
「どうせ自分が考えても否定してくるでしょ?やっても意味ないですよ」
このように、不貞腐れるのだ。