デジタル貧国の巨人 NTT#1Photo:JIJI

NTTドコモでは6月14日付で、前田義晃氏が社長に就任した。NTTがドコモを完全子会社化してから3年半。NTTから派遣された“落下傘社長”、井伊基之氏の後任は、携帯電話のネットサービス「iモード」事業を手掛けた“叩き上げのドコモ人材”だ。「脱NTT支配」の期待を集めるトップ人事にドコモ社内は沸いている。特集『デジタル貧国の巨人 NTT』の#1では、その内部事情に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

NTT完全支配下のドコモ新社長
「内部昇格」の起用に社内沸く

「ポジティブサプライズだ」――。NTTドコモ社内では、新社長の就任を歓迎する声が広がっている。

 NTTグループの稼ぎ頭であるドコモは2020年12月にNTTの完全子会社になった。それと同時にNTTから送り込まれたのは、前社長の井伊基之氏(65歳)だった。同氏は、圧倒的業界首位だったドコモの復権に取り組んできたが、この役割は、新社長の前田義晃氏(54歳)に引き継がれることになった。これには、単なるトップの“若返り”にとどまらない二つのサプライズがある。

 まず、前田氏はNTT生え抜きではない。ドコモに限らず、これまでのNTTグループ各社の社長は、NTTに新卒入社した社員が就任してきたが、前田氏はリクルート出身で、2000年にドコモに中途入社している。転職組がドコモ社長になったのは初めてのことだ。

 さらに、NTTとドコモが繰り返してきた“暗闘の歴史”を振り返ると、前田氏の社長就任が一段と特別な意味を持つ。

 1992年にNTTから分離して発足したドコモは、グループの中で“傍流”の位置付けからスタートしたためNTTに反発する自主独立の気風が強かった。それに対してNTTは、ドコモの経営に度々介入して支配を試みるという対立を水面下で繰り返してきた。

 この暗闘に終止符を打ったのが、NTTによるドコモの完全子会社化だ。NTTはドコモを資本の論理でねじ伏せると同時に、NTT本体でエリートだった井伊氏を落下傘社長として派遣した。しかし、その後継者は、落下傘ではなかったというわけだ。

 前田氏は、30歳でドコモに中途入社して、全盛期の「iモード」事業のチームに合流して以降、24年にわたりドコモでキャリアを積んだ、いわば「ドコモ叩き上げ」の人材である。

 NTTの完全支配下にあるドコモ内部は、“ドコモ代表”の前田氏の社長就任に沸き立っているが、NTTエリートだった井伊氏が、後任を自身と同じNTTエリートからではなく、ドコモの内部から引き上げたのはなぜなのか。

 それを探ると、井伊氏の在任中に浮き彫りになった、ドコモが抱える深刻な課題が見えてきた。次ページで詳述する。