僕は、自立を目指すにしても米国を敵にすべきではないと思っている。性急な対米自立論には与しない。米国と連携しながら、つまり対米協調しながら、その枠内でどう日本の主体性を出していくかが重要だ。その枠内で、アジアとの連携を探ることが日本に課せられていると思っている。つまり、対立か従属かの二分法ではなく、複数の関係を同時に大事にしていく道だ。

 問題は、いまの日米関係が対米協調を飛び越えて対米従属的になり過ぎていることだ。安倍が集団的自衛権行使容認のカードを切ったにもかかわらず、それが日米間の力関係のバランス改善につながっていない。

日米安保における
日本の主体性と核武装論

 日米地位協定の改定問題も放置されたままだ。岸田の防衛費増強、敵基地攻撃能力の保有も、米国の言い値で事が進んでおり、日本の主体性に基づいた独自の戦略というものが見えてこない。これでは僕は、命を賭して対米協調の断を下した井伊直弼にも顔向けができないということになる。

 2020年、僕は安全保障を考える勉強会を作った。日米安保における日本の主体性がどうあるべきなのかを、もう一回根本的に考え直したいと思ってのことだ。

 もちろん、台湾有事、米中戦争をどう見るか、またそれをどう回避するかを考える勉強会だ。

 日米同盟は必要だ。ただし、これまでのような受け身の日米同盟ではダメだ。日本が主体性を持てる、積極的に活用できるような同盟にする。中国、ロシア、ASEANと外交的に深い関係を築き、米国にも日米同盟がベターだと思わせる、そんな新たな多国間戦略を練る会だ。

 主体性を考えた時に、では自主防衛ですか、そうなると核武装するのですか、という議論に必ずなる。ここは僕の考えをはっきりさせておきたい。

 2003年のことだ。イラク戦争が始まる2カ月前にイラクに行った。フセイン大統領にインタビューできるという触れ込みだったが、フセイン側近から「田原さんの行動はすべてCIAにマークされており、インタビューを受けた途端に爆撃される」と言われ、ラマダン副大統領を代理で出してきた。ラマダンのその時の発言をいまでも思い出す。