「いつもニコニコしていて機嫌がいい人」がよしとされる社会だが、必ずしも、感情を出さないことがいいこととはかぎらない。なんでも「我慢しすぎる人」は、ある日突然、限界がきてしまうこともある。
42歳でパーキンソン病におかされた精神科医のエッセイが、韓国でロングセラーになっている。『もし私が人生をやり直せたら』という本だ。「自分をもっと褒めてあげようと思った」「人生に疲れ、温かいアドバイスが欲しいときに読みたい」「限られた時間を、もっと大切にしたい」と共感・絶賛の声が相次いでいるそうだ。
男女問わず、多くの人から共感・絶賛を集める著者の考え方とは、いったいどのようなものなのか? 本書から、エッセンスをピックアップして紹介する本連載。今回のテーマは、「なんでも我慢しすぎる人がやるべき4つのこと」だ。(文/川代紗生、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

もし私が人生をやり直せたらPhoto: Adobe Stock

なんでも「我慢しすぎる人」に突然訪れる変化

 あなたには、言いたいことを我慢した経験はあるだろうか。

 怒り、悲しさ、憤り。大人になればなるほど、責任ある立場になればなるほど、感情をおさえなければならない場面は増える。

「アンガーマネジメント」というやり方もあるように、自分の感情をコントロールする訓練をしている人も多いかもしれない。

 私には、感情を我慢しすぎて、心身のバランスを崩してしまったことがある。

 大きな仕事を任されていた。自分がやらなくてはならないことがたくさんあり、忙しかった。猫の手も借りたいくらいだったが、同僚に迷惑をかけ、嫌な顔をされるのがおそろしく、私は気持ちを押し殺すようになってしまった。

 私が言えなかった言葉は「助けて」だ。

 助けてほしい。手を貸してほしい。ここを手伝ってほしい。それがどうしても言えなかった。

 はじめは「助けてほしい」という純粋な感情だったはずが、それはしだいに、「どうして助けてくれないの?」という、周囲への怒りに変わっていった。

 自分はこんなに仕事を抱えていて、それをみんなも気づいているはずなのに、どうして手を差し伸べてくれないのか。

 今思えば、身勝手極まりない感情の動きだが、その当時はやはり、忙しすぎて、感情が暴走してしまっていたのだろう。

 本書のページをめくり、「抑え込まれた感情はよどんでいく」というフレーズを読んだとき、まさに、自分のことだ、と思った。

 著者は、42歳でパーキンソン病におかされた韓国の精神科医、キム・へナムさんという女性だ。

 治療法の見つかっていない難病にかかってしまった彼女の人生経験と、精神科医としての論理的な洞察がうまく織り交ぜられ、読んでいてとても腑に落ちる。

 とくに、「気持ちを我慢し続けると、人はどうなるのか」というトピックについては、はっとさせられるところが多かった。

しかしこうしたマイナス感情を抱くこと自体が許せない人たちは、少しでもその兆しがあると自分を責め、感情を押し殺そうとします。自分の感情を相手に悟られたら、その瞬間に大事な関係が壊れてしまうのではないかと恐れているのです。だからどんなにカチンと来ても表に出しません。(P.117)

「怒ることを許してもらえなかった子ども」が失ってしまうもの

 彼女によると、このように、怒り・嫉妬・憎しみ・悲しみなどの感情から目を逸らしたり、我慢したり、押し殺したりしようとする人のほとんどは幼少期に原因があるという。

 親が必要以上に厳しくしたり、無視したりするなど、マイナスの感情を出すことは「正しくない」と認識するきっかけがあると、正直な感情が理解できなくなる。

 結果として、感情のコントロールの方法を学ばないまま、大人になってしまうそうだ。

押さえ込まれた感情というのは、そのまま浄化されることなくよどんでいきます。だからこそ、ある感情が浮かんだなら、その感情を静かに見つめてください。もし怒りの感情が湧いたら、「私は今、この人に対して怒っているんだな」と自分の気持ちを認めてください。それがないと感情を見つめることもできず、何が原因だったのか、どう対応すればいいのかもわからず、適切に調節する機会を失ってしまいます。(P.117)

「マイナス感情」とうまく付き合うための4つの方法

 とはいえ、気持ちを押し殺すのが当たり前、周りの人に迷惑をかけないようにふるまうのが当たり前、という人にとっては、いきなり自分のマイナス感情を吐き出すのは難しいだろう。

 そんな人のために、著者は4つの方法を提案している。

1. 感情を理解し、受け入れる時間を持つ

 ここで重要なのは、「感情が自然に流れて行くように道を開けておく」ことだそうだ。

 怒りや嫉妬の感情が、なぜ生まれたのか。これからどうなりそうか。押さえ込もうとするのではなく、自分の感情を正しく知ろうとすることが大事だ。

2. 感情を表現するときは、「私」が主語の文章で話すこと

 これも、「言われてみれば」と膝を打ったのだが、感情のすれ違いがエスカレートすると、「あなたにはがっかりした」「あなたのせいで腹が立った」というように、相手のせいにした言葉が出がちなのだそうだ。

 だからこそ、「私は、あなたが私の話を聞いてくれないのが嫌だ」など、あくまでも「私」を主語にして文章を組み立てるよう意識する。

 「あなたのせいで」とどちらかが一度言ってしまうと、それにつられるように、そして自分を守るように、もう一方も「そっちだって」「お前こそ」と、攻撃的な言葉を使うようになってしまう。

3. すぐに爆発するタイプの相手には、できるだけ表現を抑えること

 たとえば、怒りっぽい先輩や高圧的な上司など、すぐに感情を爆発させるタイプの相手には、できるだけ抑えた表現を使う。

 マイナス感情はポジティブ感情よりも相手に伝わりやすく、「共鳴現象」を引き起こしやすいのだそうだ。

4. 感情に忠実でも、過信は禁物

 これも私には驚きだったのだが、著者によると「感情は基本的に快感感情に従うため、即時的な満足を追求するのだそうだ。

したがって感情の振れ幅が大きい場合、何も考えずにそれに従っていると人間関係にも影響し、取り返しのつかない問題に発展することもあります。だから、現在抱いている感情が即時的なものなのか、この先どうなっても責任が取れるものなのか、一呼吸置いて考えてください。(P.120)

「助けてほしい」が言えない人の共通点

 著者によると、いつも機嫌のいい状態を保ち、自分の感情を表に出さない人には、一つの共通点があるという。

 それは、誰かを羨ましいと思う気持ち、怒りの感情などが浮かんでくるたびにそれを我慢し、すぐに打ち消そうと「過剰適応」してしまうことだ。

 感情を他人にぶつけるのは自分のわがままだと思い込み、人に頼るどころか、「自分は悪い感情を抱いてしまうダメなやつだ」と、むしろ、自分自身を責めてしまうという。

 そうしてできた傷は、我慢することでなくなるわけでは決してない。感情を抑制しすぎることで、自分を蝕み、病気を誘発してしまうこともある。

ところで世の中に、「悪い感情」なんてあるのでしょうか? すべての感情は正常です。ただ、度が過ぎた極端な感情が問題であるというだけです。(P.115)

 著者の言葉には、「こうでなくてはならない」という固定観念を、じわりじわりと少しずつ、ほぐしていってくれるような力がある。

 いつも我慢することが多く、感情を表に出すのが苦手で息苦しい──。

 そう感じている人には、きっと著者のメッセージが刺さるのではないだろうか。