かつては「参入しやすい業界」
サウナブームとコロナ禍で変化
首都圏で競争が激しくなる以前、地下水をくみ上げて沸かし、広い湯上りスペースがあれば一定の集客が見込めるスーパー銭湯は、参入への障壁が高くないと言われていた。そのため、駐車場運営大手のパーク24(東京・池袋の「タイムズ・スパ・レスタ」)や、写真現像が祖業の万葉倶楽部グループ(現在は「豊洲千客万来」施設も運営)、鉄道やバス事業者、電力会社やガソリンスタンドのような、異業種からの参入が相次いだ。
この状況を変えたのは、19年頃から始まったサウナブームだ。特に人気漫画『サ道』(講談社)を原作としたドラマ(テレビ東京系列)の影響はすさまじく、汗を流してコンディションが整った状態を指す「ととのう」というフレーズが、21年のユーキャン新語・流行語大賞にもノミネートされたほどだ。それまでサウナ愛好家だけが知っていたロウリュ、「熱波師」、「サ飯」(サウナ上がりの食事)、サウナハットなどのフレーズが一般化したことで、新たな客層が温浴施設市場を一気に拡大した。
さらにコロナ禍によって、広いゴロ寝スペースではなく、ソーシャルディスタンスを確保した半個室やチェアが好まれるようになった。こうして、サウナの充実と新タイプの休憩スペースはもちろん、水質の良い複数の水風呂、はたまた沸かし湯ではない天然温泉や岩盤浴に、安かろう・まずかろうではない食事処などが一括で求められるようになった。
天然温泉は掘削の初期費用が1億円を越える場合もある。岩盤浴や充実した食事処は入館料プラスアルファの収益を稼ぎ、客単価を押し上げる一方、それなりの初期投資も必要だ。これらに対応できるのは、企業体力や経営力があり、かつサウナの楽しみ方を知り尽くした既存事業者に限られる。こうして、温浴施設業界で勝ち残るプレイヤーは集約されつつある。
なお、沸かし湯を使用する温浴施設の場合、ボイラーの寿命が10~20年ごとに訪れる。施設の老朽化のタイミングで、近隣で競合の出店が重なると、既存店は退出を余儀なくされる。また、広い土地を借地権で確保したがゆえに契約延長ができなかった「東京お台場 大江戸温泉物語」(21年閉店)のようなケースもある。
こうして首都圏ではスーパー銭湯・温浴施設業界の“群雄割拠”が続き、古参と新参による新陳代謝が活発化している。いずれにせよ今後は、しっかりしたノウハウを持つ事業者に集約されていくはずだ。