万景峰号問題に当選2回生で直面した菅義偉、北朝鮮への制裁慎重論にどう応じたか筆者に署名名簿を渡す「横田めぐみさんとの再会を誓う同級生の会」の池田正樹代表(右から2人目)、横田早紀江さん(同4人目)ら(2019年1月15日撮影) Photo:SANKEI

北朝鮮による拉致問題の解決は、私自身にとって官房長官を務める以前から極めて大きなテーマだった。今でもその思いは変わらない。今回は、これまで私がどのように北朝鮮政策に携わってきたのか振り返ってみたい。(肩書はいずれも当時のもの)(第99代内閣総理大臣/衆議院議員 菅 義偉)

拉致問題解決への
熱意は今も変わらず

「どうか想像してください。40年以上も異国の地で救出を待つ被害者、そして、そのご帰国を切なる思いで待ち続けるご家族の、長い年月にわたる苦しみと悲しみを。これらに思いを致すとき、私には申し上げる言葉もありません」

 2019年5月、私は官房長官兼拉致問題担当大臣として米ニューヨーク国連本部で基調講演を行った。日本、米国、オーストラリア、EU(欧州連合)の共催による拉致問題に関するシンポジウムで、被害者家族を含む当事者からの「生の声」を国際社会に伝える貴重な場でのことだ。

 歴代の拉致問題担当大臣は毎年、このシンポジウムに参加してきたが、官房長官を兼ねる立場での参加は初めてのことだった。官房長官の訪米自体が極めて異例だったこともあり、ニューヨークに先立って訪れたワシントンでのペンス副大統領、ポンぺオ国務長官、シャナハン国防長官代行との会談にも、拉致シンポジウムと同等か、それ以上の注目が集まった。だが、これを捉えて「ポスト安倍を狙った外交デビュー」といった報道が相次いだのは率直なところ心外であった。

 また、当時、沖縄基地負担軽減担当大臣も兼務する立場から、各会談では沖縄の基地負担に関する米国への働き掛けも行ったのだが、このこともほとんど報じられず残念に思った。

 米国側は一様に、北朝鮮の核・ミサイル開発問題と同じく拉致問題にも強い関心を持っていた。特にペンス副大統領は私を自身の執務室にまで案内して私の話に熱心に耳を傾けてくれたが、拉致被害者やその家族の境遇にとりわけ心を痛めている様子だった。

 もちろんこの背景には、安倍晋三総理とトランプ大統領の良好な関係があった。19年にはトランプ大統領と拉致被害者家族の対面も実現している。

 私が内閣官房長官に上乗せする形で拉致問題担当大臣を拝命したのは18年10月。それまでも政府の拉致問題対策本部の副本部長を務めてきたが、拝命に当たり安倍総理からは「政府、与党一体のオールジャパンの体制を強化し、家族会の皆さまとも意思疎通を図りながら、その責任をしっかりと果たしてほしい」との指示を受けた。

 拉致問題解決は安倍政権の最重要課題であると同時に、私自身にとっても極めて強い関心を持ち続けてきたテーマであった。そもそも安倍総理との最初の接点も、振り返れば拉致問題、対北朝鮮政策がきっかけだった。