「新NISA」の原型となる制度が導入されたのは、10年前のことだ。結果的に国民の投資マインドは大きく変わり、アベノミクスを象徴する取り組みの一つとなった。今回は、安倍政権下で取り組んだ一連の金融改革を振り返ってみたい。(肩書は全て当時のもの)(第99代内閣総理大臣/衆議院議員 菅 義偉)
新NISAが話題に
原型の制度は2014年にスタート
アベノミクスの改革の中でも、大きな成果を上げた分野の一つが金融分野であろう。安倍政権では、発足当初から金融改革に取り組み、私も官房長官として陣頭指揮を執った。
今年から従来のNISA(少額投資非課税制度)を大幅に使いやすくした「新NISA」が始まり、多くの媒体で取り扱われ、「NISAもう始めてる?」と話題に上るようになった。新NISAの原型となる最初の制度が始まったのは2014年1月。「家計の安定的な資産形成の支援」と「経済成長に必要な成長資金の供給拡大」の両立を図る観点から導入された。
当時、国民の個人資産約1800兆円の52%が預貯金で、株式や投資信託などで運用される割合は米国の半分以下となっていた。こうした違いの結果、運用益による家計金融資産の増加は、20年間で米国は約2.32倍になったのに対し、日本は1.15倍にとどまっていた。「眠っている」状態にあった個人資産の一部でも貯蓄から投資に回れば、世界の経済成長の恩恵を個人も受けられるようになる。社会には投資を忌避する雰囲気もあったが、これを拭い去り「貯蓄から資産形成へ」の流れをつくることが必要だった。
当初100万円の非課税枠で始まったNISAは、16年には非課税枠が120万円となり、18年からは、少額からの長期積み立て・分散投資を促進するための「つみたてNISA」も始まった。そして今年からはこれまでのNISAを一本化し、投資枠も拡大するなど、大幅に使いやすくなった。
当初、非課税枠を設けることに反対したのは財務省だった。当然、税収が下がるからだが、投資が活性化し、株価が上がり、国民が恩恵を受けられるようになれば税収にもプラスがある。こうした改革には、金融庁の監督局長から長官となった森信親氏の改革へ取り組む姿勢も力になった。