しかしながら、この統計でより目を引くのは60~64歳の対前年増減率3.5%、65~69歳の同4.7%といった数字だ。60代のシニア層の賃金が大幅に上昇しているということである。また、労働力調査を見てみると、65歳以上の就業者数は12年の596万人から22年の912万人へと大幅に増加している。
これらシニア層の就業の増加と賃金の上昇は、ベテラン・シニア社員に対する労働需要が強まっていることを示唆している。この背景には、15~64歳の生産年齢人口が毎年およそ1%のペースで減少していることがあるだろう。
また、日本企業で一般的だった人事管理は、定年退職後の従業員の処遇を大幅にカットして再雇用するという手法だ。それが最近では、個々の従業員のスキルに見合った処遇を準備するといった人事管理が徐々に浸透しているのかもしれない。
政府統計の中に表れているシニア層活用の流れに目を向けると、それぞれの職場でもこれまでの人事慣行にとらわれず、シニア層の活躍を促すための人事制度を再設計することを検討すべきだろう。一律の定年延長は高いコストを伴う。成果に応じて雇用延長や処遇を決めるような制度設計が必要となろう。
(東京大学公共政策大学院 教授 川口大司)