具体的に検討してみますと、(1)の業務上の必要性については、「余人をもって容易に代え難い」といった高度の必要性までは求められません(前掲東亜ペイント事件)。欠員の補充や定期的な人事ローテーション、労働者に何らかの問題(例えば、労働者の病気に配慮する場合や労働者の成績不良の場合、協調性欠如の場合等)があり、他業務で従事させる場合など、労働力の適正配置といった企業の合理的運営に資する内容であれば、業務上の必要性は認められます。

(2)の不当な動機・目的に関しては、例えば、退職勧奨に応じなかった社員を退職に追い込むためになされる配転など、嫌がらせ目的でなされるものが典型的です。

(3)の通常甘受すべき不利益か否かの点は、最も問題が生じやすいといえます。不利益といっても様々な内容があり得ます。例えば、職種が変更されることで支給される手当が変わり、賃金上の不利益を被るケース、遠隔地に配転されることで、家族の介護ができなくなるケース、社員が通っていた病院に通院できなくなり、健康上の問題が生じるといったケースなど様々なものがあります。本事例のように、同じ職種で長年積み重ねてきたキャリアを継続できないといった不利益もあるでしょう。運送会社において、運行管理者から倉庫業務に配転させたことが問題となった事例では、運行管理者の資格を活かし、運行管理業務や配車業務に従事するという労働者の期待への配慮が求められる旨が判示された裁判例もあります(安藤運輸事件・名古屋高判令和3年1月20日労判1240号5頁)。

本事案についての
法的な検討結果は?

 タクシー運転手に係る本事案では、一定の資格を求められる職種であり、タクシー運転手として採用されている以上、職種限定合意が認められる余地は否定できません。しかしながら、労働条件通知書には、「その他会社が指示する業務」と記載されているうえ、採用時にもタクシー運転手以外に従事してもらう可能性を説明していることから、職種限定合意が認められるハードルは高いものと考えられます。