一方的な配転の是非
会社が命令するための法的根拠とは

 配転(配置転換)とは、従業員の職務内容や勤務場所を変更し、配置の変更を行うことをいいます(短期間の応援等は含みません)。いわゆる人事異動です。複数の事業所を有している一定規模以上の会社では、事業所をまたぐ配転が行われることがあり、特に社員の住居地も変わるような場合は転勤と呼ぶこともあります。その一方で、1つの事業所しかない中小企業でも、A課に所属する従業員をB課に配属させる場合など、従事する職務内容を変更する場合があり、これも配転に含まれます。

 会社が社員に対し、有効に配転を命じるためには、その権限(配転命令権)が労働契約上に根拠付けられなければなりません。一般的には、就業規則に「業務上の都合により配置転換、転勤を命じることができる」といった規定を設けることで、その権限を根拠付けます。

 ただし、就業規則にこうした定めがない場合でも、配転命令を発することができないとは限りません。特に長期雇用を予定して採用された正社員について、職務の内容や勤務地を限定するような特約がなく、実際に社内で配転が広く行われているような事情がある場合には、労働契約上の明示または黙示の合意によって、配転命令権があると解されることもあります(精電舎電子工業事件・東京地判平成18年7月14日労判922号34頁)。

職種限定合意はあったか?
入社時の曖昧さがトラブルをまねく

 会社に配転命令権があるとしても、社員を一定の職種に限定する(当該職種以外には一切従事させない)旨の合意がなされた場合、配転を命じられるのはその範囲内に限られます。

 例えば、従事する職務を病院の看護師に限定する合意のうえで採用された場合、その後、医療事務職に異動を命じられないということです。ここでいう合意を「職種限定合意」といいます。同様に、勤務地を限定する趣旨の合意を「勤務地限定合意」といいます。

 明示的に職種限定合意や勤務地限定合意が存在していれば、労働者との間で疑義は生じませんが、トラブルになる多くの事例は、このような合意の有無が曖昧なケースです。