一般的には、特殊な技能や資格が必要とされる職種で採用される場合、会社との間で明示または黙示に職種限定の合意が成立することがあります(調理部員から営業部への配転を無効とした事例として、大京事件・大阪地判平成11年3月24日労経速1864号21頁等)。タクシー乗務員については、営業係への配転を無効とした判断がある一方(古賀タクシー事件・福岡地判平成11 年3月24日労判757号31頁)、同事件の控訴審判決は、職種限定合意を否定し、配転命令を有効としています(福岡高判平成11年11月2日労判790号76頁)。

 このほか、アナウンサーについて、職種限定合意の成立を肯定した事例(日本テレビ放送網事件・東京地決昭和51年7月23日労判257号23頁)と、否定した事例(九州朝日放送事件・最判平成10年9月10日労判757号20頁)があるなど、判断が分かれています。

 また、長期間同一の業務に従事していたことをもって、職種限定合意が成立するかどうかも問題になります。労働者からすると、長期間同一の業務に従事し、社内では当該業務でキャリアを積み、今後も当該職種に従事することを期待する場合もあるでしょう。しかしながら、十数年から二十数年間、機械工として従事してきた労働者について、直ちに職種限定合意を認めることができないとした事例があるように(日産自動車東村山工場事件・最判平成元年12月7日労判554号6頁)、単に長期間同一の業務に従事したことのみをもって、職種限定合意を認めることは困難です。

 このように、特殊な技能や資格を要する職種においては、職種限定合意が認められることがありますが、職種の内容のみで必ず成立するものとはいえません。採用時にどのような説明がなされたか、就業規則、雇用契約書、労働協約等にどのような定めがあるか等が重要となります。

配転命令権の限界
会社の権利濫用とみなされる場合も

 仮に職種限定合意が認められず、他の業務に配転できるとしても、無制限に配転できるとは限りません。判例(東亜ペイント事件・最判昭和61年7月14日労判477号6頁)によれば、

(1)(配転命令に係る)業務上の必要性がない場合
(2)(業務上の必要性があるとしても)不当な動機・目的をもってなされたとき
(3)(業務上の必要性があるとしても)労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき

 など、特段の事情がある場合には、当該配転命令は権利濫用として無効になると解されています。