経済協力開発機構のデータ(2021年)によれば、日本人の平均睡眠時間は7時間22分と、加盟30カ国の最下位だった。
平日の睡眠不足を補おうと「週末寝だめ(キャッチアップ睡眠:WCS)」を習慣とする人も多いだろう。ただ、WCSの効果については否定的な意見も多い。ちょっとネットを検索しただけで、「体内時計が狂い、間食が増える」「メタボが加速する」などの負の情報が出てくる。
一方、近年はWCSそのものより、WCSの継続時間に焦点を当てた研究が増えてきた。
中国・中南大学湘雅医院の研究グループは、米国の国民健康栄養調査(NHANES)のデータを使い、WCSが「うつ症状」に与える効果を検証している。
評価対象は17~21年にNHANESに参加した7719人。睡眠時間は自己申告で、うつ症状の有無はセルフチェックシート(PHQ-9)で確認を行った。
その結果、WCSと、うつ症状との有意な関連は見いだせなかったものの、WCSが平日の平均睡眠時間に+「ゼロ~2時間」の場合にのみ、PHQ-9が有意に改善していたのである。
特に、男性、65歳未満、そして平日の平均睡眠時間がより短い人では、明らかな「抗うつ効果」が認められた。
ちなみに、同じNHANESのデータを使った別の調査では、平日の平均睡眠時間に+0~2時間未満のWCSで、脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患の有病率が低下したと報告されている。
こちらも、普段6時間未満の睡眠しかとれない睡眠不足の人ほど、有意に効果が高かった。
両試験の結果をみる限り、休日だからと昼過ぎまでダラダラ寝るのはマイナスだが、普段より1~2時間遅く起きる分には、心身の健康に良いようだ。
さて、睡眠不足大国ニッポンでは、近々に「睡眠科」を標榜科として新設する動きがある。受診しやすくなるのはいいが、睡眠導入剤頼みにならないよう注意したい。
まずは生活リズムを見直しつつ、適度なWCSも取り入れて最適な睡眠パターンを探していこう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)