公安はカラオケボックスで反省会?
秘密保持以外にも意外な利点が

 ひと昔前までは、公安捜査官のチームでの反省会や次のオペレーションの作戦会議は、居酒屋の座敷などで行っていた。それが今ではカラオケボックスで行うことが多い。

 理由は簡単だ。カラオケボックスは音が漏れないのと、呼ばないと店員が来ないので、内密な話をしやすい環境だからだ。

 徹夜でスパイを張りこんでいて、眠くなったらここのソファでそのまま仮眠してもいい。それらのことから、カラオケボックスは使い勝手が良いのだ。

 最近では、カラオケボックスで外回りの営業マンがミーティングをしたり、会社には出社せずにノートパソコンを開いて仕事をしたりするケースが増えていると聞く。

 おかげで学生ではない男連中5、6名がカラオケボックスに入っても、周囲からは違和感を抱かれなくなった。

 ところで、私が公安監修したドラマ『VIVANT』を見た人たちから、よくこんな質問を受ける。

「警視庁公安部がある庁舎は近代的で素晴らしいですね。あのような場所で公安警察の皆さんがミッション遂行のために集結しているのですね」

 確かに警察ドラマの中では事件ごとに捜査官が一堂に会して、事件の経緯の報告を受け、今後の捜査の方針について指示を受けることがある。

 しかし、秘匿捜査に従事する公安警察のメンバーが全員集まって決起集会をすることは実際にはない。あれはあくまでもドラマの中での話だ。

 公安警察は5名以上のチームで各自与えられたミッションを行うが、自分たちのチーム以外のメンバーとコンタクトすることは基本、ない。

 そもそも警視庁の公安部に全員集まることもない。基本は外回りがメインなので、先ほどもお伝えしたように作戦会議は居酒屋の個室だったり、カラオケボックスだったり、人の目についても違和感がなく、かつ密室性が保てる場所で行われるのだ。

 話を戻そう。私が現役の頃も、カラオケボックスで反省会をしたのだが、そこでよく繰り広げられるのは、

「おまえ、あのとき失尾しただろう?」

「いや、あれはあえて脱尾したんだ」

「いや、あれは絶対に失尾だ!」

 反省会では、一瞬の判断がオペレーションの失敗にならないように、細かい部分まで振り返って分析し、チームで共有することが何より大事になる。