今日だけは、人から嫌なことを言われてもめげずにいよう、今日だけは、イライラしないでおおらかな気持ちで過ごそう、そんなふうに気持ちの上でできる限定プランを考えて日替わりでひそかに実行すると、気持ちがすっきりしてくるはずだ。

 今日だけなんて意味がない、という人もいるが、今日という日は人生の中の大事なひとときだ。そのひとときをいい気分で過ごすことの連続で人生が出来上がる。

 日替わりメニューを考えるのは結構楽しい。そして自分の問題点をその日限定で克服していくのも楽しい。

父が教えてくれた
「平凡」という幸せ

 権威や権力にはおよそ無縁で、横浜のはずれで小さな医院を開業していた私の父は、スポーツ中継を見るのが好きだった。

 しかし華々しいスター選手は嫌いで、地味で裏方のようなプレーをする選手や小兵で頑張るものの負けてしまう選手を応援してはくやしがるのだった。

 私が中学1年になった年、親戚の結婚式があり、父がスピーチをすることになった。

 私も大人の仲間入りをということで、はじめて宴に招かれた。

 その親戚は一族の中でも出世頭で、新郎の父親は一部上場企業の管理職をしており、重役を目指して出世街道を進んでいた。

 その披露宴で父はこんな話をした。

 人生の幸せは平凡であることです。とくに何も変わったことがない平々凡々とした生活を馬鹿にしてはいけないよ、出世や名声を求めるより大事なことがある。

 聞きようによっては嫌味にもとれる内容だが、父のそのときの声の真剣さは、まだ子供だった私にも胸にずしりと響くものがあった。そうした華々しい席でスピーチした父を見たのはこのとき一度きりだ。

 若いころは地位や名声を目指すもの。父の言う「とくに変わったことのない平々凡々な生活」が消極的に感じられることもあった。

 父は喉頭がんが全身に転移して1990年に亡くなった。自分が死んでから読むように、と、私は1冊のノートを渡された。父が亡くなってすぐには開く気になれず、半年たってノートを開いてみた。そしてはじめて父がヒロシマを体験したことを知った。

 原爆投下直後に広島に入り、そこでボランティア活動をしたために二次被ばくし、それがきっかけで体調を崩して結核になったことも知った。