確かに家庭なら毎日のように行う清掃も、車となると回数は激減。シートの水拭きさえめったにしない人が多いでしょう。木村さんが車内清掃に需要があることに気づいたのは、お父さんが病に倒れ、わずか1年足らずで亡くなってしまわれたのがきっかけでした。高齢者介護の現場に触れたことから、要介護の高齢者を移送する車両の車内を清潔にし、こもりがちなにおいを消すことができたらこれはきっと喜ばれる、介護業界を通じて世の中に貢献できるような仕事をしたいという思いから、ひらめいたのです。42歳の時のことです。

「親父はあっけなく亡くなってしまいましたが、介護福祉に役立つことを何かやりたかった。そしたらやはり自分の専門の車関連に目が向いたのですね」と木村さんは振り返ります。

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 実は木村さんは、トップクラスの整備士として業界では知られた存在でした。整備士として勤めた最初の会社を7年で辞め、輸入車を扱う大手ディーラーへ転職、そこで企業再建に取り組むこと8年。さらにフランス車を取扱う企業に移ってからは自ら年俸制を望み、2000年には整備インポーターとして1位を取ったほど営業成績も素晴らしいものだったのです。木村さんは早い時期から独立を考えていましたが、具体的には決めておらず、漠然と整備工場を持とうかなと考えていた程度でした。それが一転して、車内清掃業を始めることになったのですが、決意してからの木村さんの行動は迅速でした。

 2011年2月、木村さんは車1台が置ける清掃作業スペースと事務室だけのオフィスで開業しました。ところが思うように注文は取れませんでした。福祉車両の多くがレンタルで賄われているのですが、レンタルする会社は、清掃に出すことで伝染性のウィルスでも検出されたのではないかと疑われるのを恐れて清掃を発注したがらなかったのです。福祉ビジネス大手や、タクシー、トラックといった業務用車両は、ビルメンテナンス会社や清掃会社と既に契約を結んでいました。

 木村さんの清掃法では、除菌・抗菌作用が高く安全性も明確な二酸化塩素を使用しており、ノロウィルスやインフルエンザウィルスにも効果を発揮します。また嘔吐臭や、タバコ臭、ペットのにおいも脱臭されます。よい洗剤と技法なのになかなか理解されませんでした。

 そこで、家庭用乗用車の利用者層に訴求を切り替えることにして、集客のためにインターネットを使うことにしました。問い合わせ等が来るに連れて、乳幼児の嘔吐やペットの粗相で困っている家庭のニーズが高いことがわかってきました。木村さんの清掃技法にぴったり合致するニーズです。

業界に太いパイプを持つ木村さんですが、あえて人脈を頼って業務用車両の清掃に踏み込まなかったのには理由があります。

「頼みに行けば、行った先が元請になってそれ以上伸びることはできません。『車の内装』という分野を文字通り自分の手で切り開きたかったのです」と木村さんは言います。