物価高騰、超コスパ時代。1万円の料理は1000円の10倍おいしいのか? 「安くてうまい」が本当に最強なのだろうか? そんな疑問の答えを導き、人生をより豊かにする知的体験=美食と再定義するのが書籍『美食の教養』だ。イェール大を卒業後、世界127カ国・地域を食べ歩く著者の浜田岳文氏が、美食哲学から世界各国料理の歴史、未来予測まで、食の世界が広がるエピソードを語っている。「うなずきの連続。共感しながら一気に読んだ」「知らなかった食文化に触れて、解像度が爆上がりした!」と食べ手からも、料理人からも絶賛の声が広がっている。本稿では、その内容の一部を特別に掲載する。

【マナー違反】「無断キャンセル」の次に、飲食店が困り果てている客の行動・ワースト3Photo: Adobe Stock

「香り」には要注意

 周囲の人に迷惑をかける客は、困りものです。

 たとえば、香水の香りがきつい。海外の場合は、文化的に仕方がない国もありますが、日本は小規模なお店が多い。かつ、鮨屋や割烹など、生魚を扱う場合は香りが移りやすいので、気をつけたほうがいいと思います。

 ある鮨屋のカウンターで、親方が女性に臭いが強いと注意していました。その場合はハンドクリームだったので、女性は手を洗いに行ってことなきを得ました。

酔っ払って絡む

 酔っ払って他の客に絡むような客は、問題外です。

 昔、福岡の有名鮨店で酔っ払った男性にひたすら絡まれ続けたことがありました。同伴女性はいたたまれなさそうでしたが、おかまいなしです。

 親方も制することなく、謝罪もありません。後で兄弟子筋にその話をしたら、地元の老舗企業のバカ息子として酒癖が悪いことで有名で、出禁にするようにアドバイスしたにもかかわらず、その弟弟子はこっそり受け入れていたそうです。

 お店からすると、お金をたくさん落としてくれる客や地元の有力者だと注意しづらいのでしょうが、他の客に絡むというのは、話にならない。

 どちらも基本的で当たり前なことですが、実際に僕が体験した事例なので、反面教師にしていただければと思います。

他の店の話をする是非

 従来、食事中に他のお店の話をするのはマナー違反、といわれてきました。それを嫌がる料理人さんは、今でもたくさんいます。ただ最近は、必ずしもそうとはいえない状況も増えてきています。

 なぜかというと、料理人自身がフーディー(美食家)に負けず劣らず他の店を食べ歩く時代になってきているからです。

 カウンターのお店の場合、初めて来店するお客さんの緊張をほぐすために、普段どういうお店に行かれているんですか、とお店側から話題を振ることがあります。地方を食べ歩いていると、今回どの辺り回られるんですか、という話から、ここも行ってみてください、など、話題が広がることもあります。

 また、ある程度馴染みのお客さんであれば、情報交換を兼ねて、話題になっているレストランについて話すこともあります。

 すでにそのお店の料理人がどういうタイプかわかっていればいいのですが、そうでない場合は、他のお店の話をするときは気をつけるのが無難でしょう。

 他のお客さんがその料理人と険悪な仲の料理人の名前を出してしまい、場が凍りついた、という状況に遭遇したことも実際あります。自分からはそういう話題に持っていかず、料理人がそういう話を振ってきたら、答える、というのが最初は安全かと思います。

(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)

浜田岳文(はまだ・たけふみ)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。