日本の侵略よりももっと
「心から憎い」ことがあるのではないか

 だが、こうした「仇日」に、はっきりと違和感を表明する人たちもいる。

「日本への憎しみ? 日本の侵略戦争なんて、僕の恨みランキングのトップ100にも入ってないよ。だいたい80年以上も前の話で、僕の両親も生まれていなかった。この80年間、それ以上に心から憎いと思える事件が100件も起こっていないとでもいうのか」

 元ジャーナリストの彭遠文さんは、SNSで発表した記事でこう書いていた。彼にとっては日本の侵略よりも、1950年代末に起きた大飢饉で彼をかわいがってくれた親族が飢えに苦しんだという体験のほうがずっと「身近なものだ」という。そして、約40年続いた「一人っ子政策」によって不遇をかこった人たち、貧しさから出稼ぎに出た親と離れ離れで暮らす農村の子どもたちを思いやる。戸籍政策によって彼らは家族と離れ離れに暮らさざるを得ないのだ。

 そして、彼自身が心から愛していた報道メディアの仕事が権力の一存で潰され、彭さんやその同僚たちが職を失ったこと。彼の子どもはやはり戸籍政策のせいで、1年間学校に通えない時期があったという。

「僕にとって、こうした出来事の方が、仇日よりもずっとずっと前に並んでいる」

 その彼はコロナ政策解禁のあと、海外に出た人たちと同じように祖国を離れ、カナダで暮らすようになった。彭さんはこう続けた。

「胡さんの顔は、普通すぎるくらい普通だ。だからこそ、その写真を見ると涙が出る。『民族のメンツを守ってくれた』などという必要はない。彼女の取った行動こそが本来あるべき姿なのだから。そして、容疑者にも僕は憎しみを感じない。感じるのは悲しさだ。…(中略)…はっきり言おう。もし憎しみ教育とプロパガンダがなければ、もし世論を自由に成長させるならば、5年あるいは10年で、排他的憎しみは9割減るはずだ。これは楽観的な見方ではない。というのも、僕らのほとんどが胡友平さんに近い人間だからだ。胡さんよ、どうぞ安らかに」