質の高いユーザー体験を実現するデザイン経営で、欠かせないデザイナーの力とは

個人向けの家計簿アプリから、ビジネス向けクラウドサービスまで、多種多様なデジタルサービスを展開し、「お金のプラットフォーム」へと成長を続けるマネーフォワード。早くから経営にデザインを取り入れ、デザイン経営先進企業として名前が挙がる同社だが、デザイン経営の根本にあるのは「企業の核となるカルチャーを大切にする」というシンプルな原則だ。同社CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)の伊藤セルジオ大輔氏に聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美、撮影/朝倉祐三子)

ユーザーを徹底的に分解してもたどり着けない体験価値とは

──マネーフォワードのCDOに就任されて丸3年。実体験も踏まえて、経営や事業にデザインを活用することは、会社にどのような変化をもたらすとお考えですか。

 デザイン的なアプローチの特徴は「統合」を志向する点にあると思います。身近な例でいうと、ポスターのデザインも、ロゴ、テキスト、写真といったバラバラの要素を調和させ、統合してひと塊のメッセージを伝えようとするものです。

 一方、ビジネスの思考プロセスは「分析」や「分解」が中心です。課題を分析し、機能を細分化して専門性を高めていくのは効率的ですが、それだけではお客さまの体験まで分断されてしまいます。特に弊社ではBtoCかBtoBかを問わず、全てのサービスを「マネーフォワード」という一つのブランドとして展開するマスターブランド戦略を採用していますから、ユーザーの体験の一貫性を保つことは非常に重要です。

 分解的な思考だけでは「提供者目線」に陥りやすくなるところを、統合的な思考で補正する力が、デザインにはあります。

 マネーフォワードでは、(1)User Focus、(2)Tech&Design、(3)Fairnessという三つのバリュー(行動指針)を掲げているのですが、中でも(1)の「ユーザーフォーカス」を体現するためにデザインの力は欠かせないものです。

──独自に構築された「ユーザーフォーカス・スクラム」も、そのための仕組みですね。

 そうです。名前の通り、「ユーザーフォーカス」と「スクラム(アジャイル型開発プロセス)」を組み合わせた、プロダクト開発のための独自のフレームワークです。開発プロセスの要所要所に、ユーザー理解やプロトタイピングといったデザインアプローチを組み込んで仕組み化しています。グッドデザイン賞(2021年度)を頂いた「マネーフォワード クラウドERP」も、ユーザーフォーカス・スクラムで開発したものです。

質の高いユーザー体験を実現するデザイン経営で、欠かせないデザイナーの力とはさまざまな手法を組み合わせてユーザー理解を促進する「ユーザーフォーカス・スクラム」
拡大画像表示