色をブランド価値をつなげられるデザイナーに共通する行動とは

──デザインの活用によってさまざまな効果が得られていると思いますが、どのように測定していますか。

 デザイン組織としては「感動レベルを追求する」ことを目標に、プロダクトごとに、実現すべきユーザー体験を定め、可能な限り指標化しています。といっても、全てを定量化することはできません。「感動レベル」といっても、何が人の心を動かすかはプロダクトによって変わるので、フィロソフィーを共有しながら、解釈は各チームに任せています。

──デザイン組織は分権的にマネジメントしながら、ブランド全体としての意識は合わせていくと。

 そこが難しくて、「マネーフォワード」というブランドに対するお客さまの期待値に応えるためにはデザイナー同士の横のつながりが大事です。デザイン組織だけで100人以上の大所帯ですから、機能横断的、組織横断的なコミュニケーションが飛び交うように、声を掛けたり、交流の場をつくったり、あの手この手で活性化しています。

質の高いユーザー体験を実現するデザイン経営で、欠かせないデザイナーの力とは

──デザイン活用を社内に浸透させるために、デザイナー以外の人たちに意識してほしいことはありますか。

 それは特にないですね。というか、デザインの説明責任はデザイナー自身にあるので、そこは他者に押し付けない方がいいと思っています。デザインの効果は全て数値化できるというものではないし、見えづらい。だからこそ、構造をちゃんと理解して説明しないといけないと思っています。

 時間軸(短期─長期)と、最適化の方向性(個別─全体)の2軸でマトリクス化すると分かりやすいのですが、例えば「バナーデザインを改良したらコンバージョンが上がった」というのは、左下の「短期かつ個別最適」です。定量化もしやすいし、PL(損益計算書)で効果が可視化できます。

 一方、長期目線でブランド資産をためていく活動は「長期かつ全体最適」です。右上に行けば行くほど不確実性と複雑性が高まって難易度が上がりますが、継続性のある、より良いサービスを生み出すためには大事なところです。BS(貸借対照表)の領域ですが、実際にはBSにも載らない、いわば「隠れたBS」です。そもそもデザインにはそういう構造があるということを、デザイナー自身が捉えていることが大事だと思っています。

 例えば、マーケターから「キャンペーンツールにもっと刺激の強い色を使ってほしい」みたいな要望を受けて、デザイナーが渋々応じる……といった場面はよくありますが、これではもったいない。「刺激の強い色は短期的な数字には効果的だが長い目で見るとブランドを毀損するリスクもある。今回はこれくらいのバランスで色使いを考えよう」みたいな会話をデザイナーが普通にできるようになるのが大事です。