上司の発想の転換により
「ダメな部下」が貴重な戦力に

テシ 要は、浅田さんは自分の勝ちパターンにしがみついて、まったく異なる背景・人格を持つ人間にとっては負け戦になるようなやり方を強いていませんか?という話です。彼には彼の戦い方が必ずあるんです。

浅 ふーん。今のやり方がすべて、というわけではないわな。なるほど。その決断をするかどうかは俺に懸かってるってわけね。ダメなあいつをどうしようか?という問いは、俺がどう采配するか?に変えることで初めて問題解決へのスタートラインに立てる、と。

テシ さっすがですね。これまでのやり方をもっと強制力を持ってやらせようとすることは、見るからに困難。組織開発の基本から言っても、愚策。彼に合ったやり方に、挑戦してみましょうよ。ご了承いただけるなら、もう一度ここに相川さんを呼んで、今度は3人で話し合いを続けましょう。

 浅田営業所長の決断は早かった。すぐにやってみよう、ということになり、相川さんとその日のうちに、既契約のフォローですぐにやれることや、新規契約にしても見込み顧客のターゲットをずらすことを打ち合わせ、今週中に行うべきタスクをまとめた。

 その後も定期的にお会いする中で、相川さんの持ち味は徐々に活かされ、笑顔を取り戻した。特に教員を顧客とした職域営業で、人気を博したらしい。浅田営業所長自身、新しい営業の活路を見出したことで、ご自分の自信にもつながったと語る。勢いに乗って、相川さんの後輩になるもう1名の採用も決めたそうだ。

「優秀」な人を「選ぶ」のでも、「優秀」な営業に「育てる」のでもない。一元的な「正攻法」を捨て、どんな人材にも拙速に良し悪しをつけることなく、他者と組み合わせながら適切な職務に相対させる。「選ぶ」のは他人のことではなく、自分自身の気持ちを俯瞰しながら、落ち着いて自己のモードこそを「選ぶ」のだ。

 それは、仕事がうまくいっていないとされる側にとっても同じことだ。「自分なんか営業に向かないな。もうやだな」と思うは易し、「ここまでならやれそうだ、これだけは本当にしんどい」など、今一度言語化して自己のモードを捉え、選択の余地を探ることに努めたい。無論、管理職側がそれに耳を傾けてあげることが大大大前提だが。