伊藤忠 三菱・三井超えの試練#10Photo by Shuhei Inomata

伊藤忠商事の岡藤正広会長が、社長に就いてから来年で15年となる。2018年の会長就任後も権勢を振い、トップダウン型の経営はまだまだ続くようだ。石井敬太社長との関係は良好で、現体制は盤石だ。しかし水面下で次期社長候補の名がささやかれ始めている。特集『伊藤忠 三菱・三井超えの試練』(全10回)最終回では、石井社長の後を継ぐ次期社長を予測する。(ダイヤモンド編集部 猪股修平)

最も社長に近い人物とは
鍵は岡藤会長からの信頼

 新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2020年、岡藤正広・伊藤忠商事会長は、当時の鈴木善久社長に対する不満を頻繁に漏らすようになったという。

 伊藤忠では伝統的に、会長が社長を指名する。指名委員会もあるが、会長の判断は新社長の決定に大きく影響するのだ。

 鈴木社長は、岡藤会長の前任の小林栄三氏が指名した。

 その後、小林氏が会長を退任。新会長となった岡藤氏と鈴木社長は反りが合わなかった。

 朝型勤務の導入や「利は川下にあり」の理念で伊藤忠の急成長を指揮した岡藤会長を、ほとんどの役員は手放しでリスペクトする。「岡藤会長に付いていけば間違いはない」という雰囲気が役員の間にまん延していた。ただ、鈴木社長は違った。

 岡藤会長が社長だった頃。岡藤氏の考えに疑問があれば、当時、役員だった鈴木氏は遠慮せず口を挟んだ。「この計画では無理があります」。

 異議を唱える鈴木氏に、岡藤会長は机をたたいて怒った。「何やと」。その光景を見ていた別の役員は「ただ岡藤さんが言ったことを『できる』と返せばいいのに」と思いながら眺めていたという。

 21年3月、鈴木氏は社長の座を降りる。在任期間はわずか3年。折しも21年3月期決算で伊藤忠は、純利益、株価、時価総額で総合商社3冠を達成したところだった。

 3冠達成に沸く中で、岡藤会長によって社長に指名されたのが、現社長の石井氏だった。

 伊藤忠関係者の間では「岡藤会長との関係悪化が鈴木社長時代の短命の遠因」ともささやかれている。

 次ページでは岡藤会長と石井社長の関係や、次期社長が選出されるタイミング、次期社長候補らを明らかにする。