「リッツ・カールトンがホスピタリティで有名なのは、ある理由があります」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が記憶に残る人になるガツガツせずに信頼を得るための考え方が満載で、「本質的な内容にとても共感した!」「営業にかぎらず、人と向き合うすべての仕事に役立つと思う!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、お客様を感動させる「小さな工夫」について紹介します。

「新幹線に乗ってお客様を追いかけて忘れ物を届けた」「ビーチでのプロポーズでひざまずいても汚れないようにマットを敷いた」数々の逸話が存在する世界的ホテル「ザ・リッツ・カールトン」が大切にする、感動を生むための考え方とは?Photo: Adobe Stock

リッツ・カールトンが叶えるのは
「言葉にされていないニーズ」

 僕が働いていたリッツ・カールトンは、「言葉にされていないニーズ」を叶えるのが得意なホテルでした。

 お客様が忘れた書類を渡すために新幹線に飛び乗って追いかけたとか、お客様がビーチでプロポーズする際、ひざまずいても汚れないようにマットを敷いたとか。ホスピタリティの最高峰と称えられるホテルでしたので数々の逸話が存在します。
 これらのエピソードは「ワオ・ストーリー」と呼ばれ、全世界の社員に共有されていました。

 ですが実際に働いてみてわかったのは、そんな感動のサプライズはそうそう起こるものではないということです。
 その代わりに現場では毎日、お客様を驚かせる「小さな工夫」をしていました。

「小さな気遣い」が大きな感動を生む

 たとえば、大阪のリッツ・カールトンに泊まったお客様がレストランで「このチョコが好きだ」とおっしゃったとき。翌月、そのお客様が東京のリッツ・カールトンに宿泊すると、部屋のテーブルに「おかえりなさいませ、田中様」とメッセージカードを添えて、そのチョコが置かれていた。なんて話もあります。

 カップルのお客様が従業員との会話で「先週、誕生日だったんです」と話せば、食事のデザートが豪華になり、お皿にはチョコで「Happy Birthday」と書かれます。

 そんな、やろうと思えば誰でもできる小さなことが、リッツ・カールトンを「ホスピタリティの最高峰」に押し上げました。

 たとえ小さなことでも、お客様自身さえ気づいていない「潜在的なニーズ」を叶えることで、人の心は動くのです。

「言葉になる前のニーズ」にこたえよう

 お客様の要望が、つねに言葉に表れているとはかぎりません。
 言いたいけど、言い出せないこと。提案されて初めて、自分がそれを求めていたと気づけること。さまざまな形があります。

「この人は、こういうことに困っているんじゃないかな?」
「こういう願望を抱いているんじゃないかな?」

 相手の言動を観察して仮説を持てたら、たとえ言葉には表れていなくても、こちらから積極的に働きかけていく。
 これが、心を動かすためには欠かせないことなのです。

(本稿は、書籍『記憶に残る人になる』から一部抜粋した内容です。)

福島 靖(ふくしま・やすし)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。地元の愛媛から18歳で上京。居酒屋店員やバーテンダーなどを経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。お客様の記憶に残ることを目指し、1年で紹介数が激増。社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。株式会社OpenSkyを経て、40歳で独立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。