毎日の「仕事」が、生活費を稼ぐため仕方なくやるものではなく、「世の中のためになること」に変わっていけば、あなたの心はきっと少し躍るはず――。元ソフトバンク副社長で、「生涯現役」を掲げる84歳の著者が授ける「幸せ」な余生を手に入れるメソッドとは。※本稿は、松本徹三氏『仕事が好きで何が悪い 生涯現役で最高に楽しく働く方法』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

忍耐強く几帳面で
低賃金に文句を言わない日本人

カルロス・ゴーンWikipediaより(2009年撮影)

 日本が驚異的な高度成長を成し遂げ、米国がやがてGDPでも日本に抜かれるのではないかと恐れていた頃には、米国の多くの経営学者が「日本の成功の秘訣」を知ろうと色々な解析を試みました。

 しかし、そういう研究はそのうちにすぐにやめてしまいました。

「日本の企業経営のやり方に自分たちが学ぶべきものは何もない。日本企業の経営者はただ運が良かっただけだ。彼らは、『忍耐強く几帳面で、細部まで完璧に仕上げた商品を、約束した期日までに納入しなければ気の安らぐことのない従業員』を、いながらにして多数持っている。しかも、そのような従業員に、大した給料を払わずに済んでいる。こんなことは真似ようにも真似られないことだ」。

 そう結論づけて、彼らは匙を投げたのです。

 しかし、日本の経営者の運の強さは、長続きはしませんでした。こういった日本人従業員の類稀な特質が威力を発揮する分野は、だんだん産業の主流でなくなっていった上に、多くの途上国の労働者は、几帳面さでは日本人に及ばずとも、忍耐強さでは比肩するものを持ち、その上、日本人よりもさらに安い賃金で働いたからです。

 日本企業の強さの部分はそのままにして、経営のやり方のバカバカしさを切り落として、成功を招いた外国人の経営者もいました。一時期日産自動車の業績を急速に改善したカルロス・ゴーン氏です。

 ゴーン氏は、後には色々な問題を引き起こしましたが、就任当初の活躍は実に目覚ましいものでした。彼は日産自動車の中にあった様々なバカバカしい慣行や、長年の取引先との間の理不尽な取引条件などを、日本語が理解できないふりをして、些かの忖度もなく一切合財切り捨ててしまったのです。

 この効果は誰の目にも明らかだったので、多くの人たちが、「それまでの企業文化がいかに悪しきものだったか」を、嫌でも認めざるを得ませんでした。