多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。「ここまでわかりやすく傾聴について書かれた本はないだろう」「職場で活用したら、すぐに効果を感じた」と大反響を呼んでいます。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。
「会話」と「対話」の違いとは?
傾聴は対話です。
会話ではありません。
では、会話と対話はどこが違うのでしょうか?
まず第一に、会話は話題を選びません。そして、次々と話題を変える雑談もその内に含まれます。
一方で、対話は一つの話題に絞ります。そして、その話題を深く深く掘っていくのです。そのため、傾聴を行う際には話題を絞ることが必要です。
「対話」のテーマは相手が決める
そして、どのような話題で対話を行うかを決めるのは、もちろん話し手です。聴き手が指示、提案してはいけません。
ですから、傾聴を進める際には、聴き手から話し手に対して、「今日はどんな話をしますか?」と話題を決めるよう促します。もしそこで話し手が身を乗り出すようにして、「今日は○○の話をしたいと思っています」となればよし。何も問題はありません。
しかし、多くの場合そうはなりません。
「えーと……」と悩んだ末に「特にありません……」となってしまうことのほうが多いのが現実です。
そんな時は「何でもいいよ」といくら言っても出てきません。なぜならば、その投げかけは抽象的で具体的なイメージが湧かないからです。
超具体的なボールを投げ込む
そこで、具体的なボール(話題)を、「内角⇔外角」「低め⇔高め」などまんべんなく全方位に投げ込み、話し手にイメージを膨らませてもらうようにします。
ポイントは、超具体的であること。たとえば、「健康診断の数値が悪くてお酒減らさなくちゃいけなんだよ」「こないだ、マラソンで完走したよ!」「いま進めているプロジェクトのスケジュールがやばいんだよ「お客さんからクレームをもらって落ち込んでるんだよな」など、「仕事⇔プライベート」「いいこと⇔悪いこと」「過去⇔未来」などの全方位にバランスよく超具体的なボール(話題)を投げるのです。
「対話」の上手い人は何を観察しているのか?
人間は誰しも、「誰かに話したい」「誰かに聞いてもらいたい」と思っている話題があります。
そして、その話題に少しでも触れたときには、必ず、何らかの反応を示します。ぐっと身を乗り出す人もいれば、目をカッと見開く人もいれば、口角が上がる人もいるなど、千差万別ですが、何らかの身体的反応を示すのです。
そうした変化を観察しながら、いろいろなボール(話題)を投げ込めば、いつか必ず「そういえば……」とか、「実は……」とか、自ら話し出す瞬間が訪れます。その「話題」をつかまえることができたとき、「傾聴」=「対話」は自然に始まるのです。
(この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです)
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。
また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。