……とまあ、絵に描けば、こんなイメージを古本屋に持っている人は多いだろう。いまどき、こんな古本屋は探そうにもなかなかありませんけどね。あれば、行ってみたい。しかし、まったくないわけではない、というのもけっこう怖いが。

 たしかに店へ入ってきた客に「いらっしゃいませ」と声をかける店主は古本屋には少ない。これにもちゃんと理由があるのだが、ほかの一般の店……飲食店や、特にブックオフに代表される大型の古本屋に慣れた人にはけげんに映るだろう。

 そこで大前提。古本屋という商売の特殊性についてお話しなければならない。脅かすわけではないが、ここのところがすとんと腑に落ちないと、なかなか古本屋といいつきあいはできない。

 まず、なんといっても大事なのは、基本的に商品は委託で売れ残ったら返品が利く(例外あり)新刊書店と違って、古本屋にある商品はこれすべて、店の主人が代金と引き換えに買ってきたものだということだ。身銭を切った本なのだ。つまり、売れ残ったら返品できない。

 だから、古本屋にある本は、客の手に渡るまで、かぎりなく店主の蔵書に近い。売れて初めて商品となるのである。

「人の家の本を見せてもらう」
というくらいの意識を持とう

 本の扱い、立ち読み、冷やかしの客に対して、新刊書店より古本屋の方がはるかに態度が厳しいのはそういう背景があってのこと。そういうこともわからず、乱暴な本の扱い方をして平気な客が近年増えている。

 本の上に鞄を置く、棚から抜いた本を違う場所へ挿す、あるいはそこいらに放り出す、ページをめくるのに指につばをつける、ページを折り曲げる、必要な部分だけメモする……乱暴狼狼藉が極まると、桃太郎侍になって斬り付けたくなる。入ってきた未知の客に対して、つい店主の額に皺が寄ってしまうのもやむをえない。

 客である以上、べつにへりくだったり卑屈になる必要はないが、人の家の本を見せてもらう、ぐらいの意識はあった方がいいと思う。陶芸家の個展へ行って、陳列してある作品を、まさか乱暴に扱うことはないだろう。事情は似ている。