古本屋は、単に古びた本を仕入れて、右から左へ棚に並べているのではない。その本がどういう価値を持つかを品定めして、ときには資料にあたって素性を調べ、汚れているカバーは拭き、破れている部分は補修し、中に鉛筆で線が引いてあれば消しゴムをかけ、半透明のパラフィン紙(グラシン紙)をかけるなどのメンテナンスを行う。けっこう棚に挿すまでに手がかかっているのだ。古本は店主の手技を経た作品でもある、とは言い過ぎか。

古本屋で嫌われる客は
どこの店でも嫌われる

 以上のことを踏まえて、古本屋側から見た嫌われる客を挙げてみよう。

1 若いカップル
 いちゃいちゃデレデレして、本を話のネタにするだけで買わない。
「みて、みて。これ森田健作じゃない?」
「うそ、若いねえ。ハハハ、やっぱり青春って言ってるよ。バカだなあ」
(バカはお前や!)

2 風邪ひきの人
 やたらくしゃみをする。それもマスクなしで、手で押さえることもしない。
 つばきや鼻水が本に付着しないかと気が気ではない。

3 うんちく野郎
 いかに自分が古本にくわしいか、を滔々と述べる。家族や周りの人は相手をしないので、ここぞと知識を披露したがる。そして、結局買わない。
「この作家の初期作品は創元推理文庫に入ってるけど、絶版。S書房じゃ、○万円つけてるって。無茶するよねえ。気持ちはわかるけどさあ。漫画家のKさんが、吉祥寺のF堂の均一で拾ったって自慢してました。あ、もちろん、ぼくは持ってます。その後著作集にも入ってるけどね、あのヒト、版が変わるとき、作品いじるからねえ、困っちゃうよ。まあ、気持ちわかるけど」(ワシはあんたの気持ちがわかりまへん)

4 コートを着て、紙袋を下げている
 万引きの意志はなくても、店主から見たらいかにものスタイル。気になる。

5 いばる客
 お客さまは神様、お金を払えば何をしてもいい、と店や本にケチをつける。

6 百円の本に万札を出す
 両替えのつもりか、少額の本1冊を買うのに万札を出して、しかも本を包んでくれと要求する。

古本屋の店主はどうして無愛想なのか?「ビジネスの仕組み」知ったら腑に落ちた!『古本大全』(筑摩書房、ちくま文庫)岡崎武志(著)

7 値段確認魔
 次々と本を抜き出し、さっと裏見返しの値段だけ見て、すぐ戻す。それを何度も繰り返し、けっして買わない。

8 子ども連れの母親
 幼児を連れて店に入ってきて、あとは知らんぷりで立ち読みをしている。子どもは走り回り、泣きわめく。

9 入ってくるなり、とりあえず笑い出す客(そんなやつはいないか)

 書きはじめるときりがないが、これらは特に古本屋、と限定しなくても、嫌がられる客であることは間違いない。