結果を出している友人から「とにかくポジティブに考えればうまくいくんだよ」と言われても、何かモヤモヤする人も多いのではないだろうか?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。
【悩まない思考の大原則②】
問題は「解決」しなくてもいい。
前回、
【悩まない思考の大原則①】「思いどおりにいかない」と「うまくいかない」は違う。
を紹介した。
今回は、もう一つの原則をお伝えする。
「なるほど、『うまくいっていない』ではなく、『思いどおりにいっていない』だけ。
たしかに『あきらめたらそこで試合終了』ですもんね。
あきらめず前向きにがんばります!」
前回お伝えした第一の原則に対して、もしこんな感想を持ったら注意したほうがいい。
この人は起きている問題から目を逸らして、悩みをなかったことにしようとする「ポジティブ思考」に毒されている可能性が高いからだ。
「思いどおりにいっていない」という自覚を持つべきなのは、「あきらめずにがんばり続けることが大事だから」ではない。
思いどおりにいかなかったことによる「不愉快さ=主観的な感情」と、思いどおりにいかなかったという「問題=客観的な事実」とを切り分けないと、適切に問題に対処できなくなるからだ。
安易なポジティブ思考の持ち主は、感情と事実をない交ぜにしたまま、それにフタをして「なかったこと」にしようとする。
「気にしていたって仕方ないさ。あきらめずに前を向いてがんばろう」と言う人は、落胆する気持ちや起きている問題に対して「見て見ぬふり」をしているにすぎない。
問題は消えずに残り続けているので、いずれまた同じ問題にぶつかり、結局悩むことになってしまう。
「悩まない人」は、はじめから問題を無視するようなことはしない。
しかるべきやり方で、真摯に問題と向き合っている。
第二の原則は、この「向き合い方」に関係したものだ。
「解決」してはいけない──問題対処の3パターン
Bさんは、会社での評価が低いことに悩んでいる。
だれからも認められていないような気がしていて、職場でも居心地の悪い思いをしている。
そんな彼女は、あるとき一念発起して仕事に力を入れ始めた。
この状況をなんとか打開しようと考えたのである。
しかし、思ったように評価が上がることはなかった。多少の結果は出たものの、上司からは認められなかったのだ。
それ以来、彼女はすっかり意気消沈している。
もう一度がんばる覚悟も、別の会社に転職する勇気も持てず、モヤモヤを抱えながらやりすごす日々……。
あなたなら、Bさんにどんなアドバイスをするだろうか?
前節の内容を踏まえるなら、まずBさんの「問題」は、「仕事をがんばったけれど評価が上がらなかったこと」である。
それは単に「思いどおりにいかなかった」だけなのだが、彼女は「うまくいかなかった……」という思いにとらわれ、身動きが取れなくなっている。
Bさんはこの問題にどう向き合うべきだろうか?
一般に、問題に対処する際には大きく3つの方法がある。
① 問題そのものを解決する
② 問題を問題でなくする
③ 問題を「具体的な課題」に昇華させる
①はいわば正攻法である。
Bさんのケースに当てはめるなら、いま一度、心を入れ替えてさらに仕事に打ち込み、上司が見直すくらいの圧倒的な実績を残すという方策である。
ポジティブ思考の持ち主は「悩んでいたって仕方がない」「今度こそきっと大丈夫」といった励ましによって、再び同じ問題の解決に向かおうとする。しかしながら、少なくとも「悩まない」という観点からいえば、今回は①の対処法は悪手以外のなにものでもない。
なぜなら、Bさんが現在悩んでいるそもそものきっかけは、①のやり方が思いどおりにいかなかったことにあるからだ。このやり方でなんとかなるなら、Bさんは最初から悩んでいないはずだ。
悩みにつながりかねない問題にぶつかったときには、それを真正面から「解決」しようとしてはいけない。
一度うまくいかなかったやり方にこだわり、そのまわりをぐるぐるし始めた途端、人は悩みの沼にはまり込んでいくからだ。
「上司の評価が気に入らない」を一瞬で消す方法
「悩まない人」は、ほとんどの場合、「②問題を問題でなくする」や「③問題を『具体的な課題』に昇華させる」といった対処法を取っている。
問題にぶつかったときに、すぐさま「別の向き合い方」を探る思考アルゴリズムが備わっているのだ。
②や③は問題を「解決」するというより、問題を「解消」するやり方だ。
「悩まない人」は「問題に対する答えを導く能力」ではなく、「問題そのものを消し去るスキル」のおかげで悩まずにすんでいるのである。
これは、一般的に「リフレーミング」と呼ばれている手法に近い。
リフレーミングとは、物事を別の枠組みで捉え直すことを意味する心理学用語だ。つまり、考えるときの前提そのものを変えることで、目の前のネガティブな事態の意味を変えてしまうわけだ。
よくいわれるのは、コップに水が半分入っているときに、水が満たされているのを前提とすると「水が半分しかない」と感じるが、コップが空の状態を前提とすると「水が半分も入っている」という認知が生まれるという例だ。
このように、前提を変えると、たいていの問題は問題ではなくなる。
Bさんの例でいえば、そもそも会社で評価されないことは、そこまで大きな問題なのか? どれだけ評価が低かろうと、まったく気にしていない人は現にどんな組織にも一定数いる。
「会社で評価が低い=悪」という前提に立てば、たしかにBさんが肩身の狭さを感じるのはうなずける。だが、仲のいい同僚と日々楽しくすごすことができれば、会社からの評価は低くても、肩身の狭い思いをしなくていいかもしれない。そういう価値観に変換すれば、会社からの評価が低いという彼女の現状はなんら問題ではない。
そして、問題が消えてしまっている以上、もはや悩みは生まれようがない。
これがリフレーミングの力である(もちろん、経営者やマネジャーの立場からすれば、メンバーにそのような前提が広がっては困るので、そうならないアクションが求められる。しかしそれはまた別の話だ)。
ポジティブ人間ほど「生きづらく」なるワケ
私はいろいろな人から悩み相談を持ちかけられるが、そのほとんどは次のような型に収まる。
「P(目的)をしたいです。
しかし、a(手段)がないのでPができません。
どうすればaが手に入りますか?」
つまり、この人は「aがない」という問題に悩んでいるわけだ。
このとき、私は「こうすればaが手に入りますよ」という助言はまずしない。むしろ、「P(目的)のためには、本当にa(手段)が必要ですか?」と尋ねることにしている。
そして、よくよく聞いてみると、じつはほかにもbやcといった手段があることが見えてくる。
つまり、「Pのためにはaが必要」というのは、相談者の思い込みにすぎない。
相談者の前提が「aがなくても、bやcによってPは実現できる」へとリフレームされた瞬間、当初の「aがない」はそもそも悩む問題ではなくなるのである。
この対処法とポジティブ思考の違いがわかるだろうか?
ポジティブ思考はただ問題を「無視」しているだけなので、何度でも同じ問題が起こる。
そのたびに“前向きに”なって、必死で問題から目を背けないといけない。そのうちに悩みのタネがどんどん増えていき、逃げ場がなくなってくる。
一方、思考アルゴリズムによって「解消」された問題は、もう二度と問題にはなりえなくなる。だから、この考え方を身につけた人は、いわば「どんどん生きやすくなっていく」のである。
「悩まない人」は、なんらかの問題が持ち上がった瞬間にこの思考アルゴリズムが発動するようになっている。
自動的に「ほかにどんな手段があるだろうか?」に目が向くようになっているので、悩むことに時間を奪われずにすむ。
8割の問題はスルーできる。
では、残り2割は──?
私自身の経験では、世の中の問題の8割ほどは、前述のやり方で対処できる。
しかし、すべての問題がこのやり方でなんとかなるわけではない。ほとんどの問題は「悩むに値しないもの」として処理できるが、どうにもスルーできない問題が2割くらいある。
「会社の評価などどうでもいい」という前提なら、たしかにBさんは悩みから解放されるかもしれない。
だが、その結果として会社にいられなくなってしまえば、それはそれで困ったことになる。
そこで先ほどの「②問題を問題でなくする」と並行してインストールするべきなのが、「③問題を『具体的な課題』に昇華させる」思考アルゴリズムである。
たとえばBさんは「もっと結果を出さないと、評価が上がらない」と思い込んでいるが、果たしてそれは本当なのか?
過去の評価実績を調べたところ、じつはこの会社が属する業界は変化が激しいので、しょっちゅう会社の方針が変わっていた。
そしてそのときどきの会社の状況や方針によって評価されるポイントが変わっていたのだ。
つまり、いままでのように目の前のことを一生懸命やっているだけでは、評価が上がらない場合があるということがわかった。
もしそうなら、ただ単に「もっと仕事をがんばる」のは、「評価を上げる」目標には直結していない間違ったルートである。
Bさんがやるべきなのは、いままでの仕事をもっとがんばることではなく、いま、会社の状況や方針がどうなっており、そのために重要な仕事は何かをつかみ、その仕事に業務をシフトしていくことだ。
ここでは、「目の前の仕事をもっとがんばれば評価が上がる」から「今、会社が求めている仕事をつかんだうえで、がんばれば評価が上がる」へのリフレーミングが起きている。
「やるべきこと」がはっきりしている問題を「課題」と呼ぶ。
問題が悩みを生み出す一因は、取り組むべき「次の一手」が見つからないことにある。
この例では、「評価が上がらない」というBさんの問題は、「会社の状況、方針をつかむ」という「より具体的な課題」に変換された。問題を正しく解釈し直して「具体的な課題(=次の一手)」に置き換えた瞬間、たいていの問題は解消するのである。
「悩まない人」は「問題を問題でなくする思考アルゴリズム」と同時に、「問題を『具体的な課題』に昇華させる思考アルゴリズム」を併せ持っている。
この2つに共通しているのが、問題を真正面から「解決」するのではなく、枠組みを変えることで問題を「解消」しようとする姿勢である。
ここで2つの原則を整理しておこう。
第一の原則──「思いどおりにいかない」と「うまくいかない」は違う
第二の原則──問題は「解決」しなくてもいい
この2つを忘れなければ、基本的にどんな困りごとがやってきても、悩みに押し流されることはなくなる。メンタルの強さは関係ない。これらはあくまで「物事をどう考えるか」に関係しているからだ。
「2つの原則」を紹介したいま、センスのある読者の中には「もう『悩まない人の考え方』の真髄がわかってしまった」という人もいるかもしれない。
もちろん、「頭ではわかっているつもりだけど、まだ……」という人も心配はいらない。
本書を読み進める中で、変化を実感できるタイミングはきっとやってくるはずだ。
(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)