さらに経済安保促進(重要物資の確保)で800億円を積んだ。産業の芽を育てるという意味でスタートアップ5カ年計画に、補正予算で1兆円を計上しており、税制改正も行う。リスキリング「人への投資」ということで、5年で1兆円。また、中小企業の新陳代謝(事業再構築補助金)のために総枠で2.4兆円を支援することに決めている。

 ざっと、これからの3年から5年のあいだに、およそ8兆4000億円以上の資金を投入しようというのである。当時の西村康稔経産大臣は「アニマルスピリッツを牽引する『将来需要拡大』への期待」と言っていたそうだが、言っていることは的外れではない。

 そして、3つの好循環、国内投資→イノベーション→所得向上に向けてがんばると言うのだ。公的投資を集中的、戦略的に投下して、好循環を生んでGDPを押し上げよう、という構想なのである。

 こうしたせっかくの重要経済施策が、所得税減税問題、そして安倍派の政治資金問題で埋没してしまったことは残念だ。日本が今後、何を食い扶持とすべきか、常に議論が求められているはずである。

岸田政権のスタッフたちは
菅義偉の仕事ぶりを見習え

 これまでマクロ的な視点から経済施策を見てきたが、レイヤー(階層)の異なる視点も必要だと思う。それはショートレンジの経済政策である。

 ひとつは菅義偉が得意として展開したような施策だ。個別の国民的な課題を吸い上げ、それを課題として短期集中型でアプローチしていく。大きな進展をみせたものだけ挙げても、菅が官房長官時代に示した観光立国の推進(ビザ緩和、免税品の拡充、公共施設・迎賓館の一般公開)、農林水産業改革(TTP、輸出促進、農協・漁協改革)、この2つは官房長官に成り立ての頃から、意欲を示していたのを直接聞いている。

 このセリフはドスが利いていた。いちご農家出身の菅は農協改革について若いときから関心を持っており、それを政治の場で実現しようとしていた。

 さらに、ふるさと納税の利用拡大、外国人人材の活用(特定技能労働者制度の創設)、携帯電話料金の引き下げ、洪水対策(ダム事前放流メカニズムの構築)がある。新型コロナへの対応策の陰でその業績が埋もれてしまっているが、実は経済安全保障の分野で、産業のコメといわれる半導体供給網の整備にも相当にちからを入れて目配せしていた。

 それぞれの施策は、事前に業界の事情なり、その業界を担う組織を調べ上げたうえで、改革に着手する。その際、改革に反対する抵抗勢力は力づくで排除する。手法はシンプルだ。