「湿度は、眠り始めを意味する“入眠”と深い関わりがあります。人は深い眠りに就く際に、手のひらや足の裏など体の表面から気化熱により体温を外に逃がす“放熱”を行います。体表面の水分が空気中で水蒸気になるときに熱を奪い、深部体温と呼ばれる内臓や体内の温度を下げ、各器官を休ませます。しかし、湿気が高い環境下では、空気中に水分が満ちているせいで水分が蒸発しにくくなります。その結果、深部体温も下がりづらくなり、なかなか寝付けなかったり、眠りが浅くなったりと寝苦しさを感じてしまいます」
気温がそれほど高くない梅雨の時期も、湿度が高ければ睡眠の質が下がるという。暑さだけが夏の寝苦しさの原因とは限らないのだ。
「夏は湿度を下げれば“体感温度”も下がるので、エアコンの設定温度を下げずとも、涼しさを感じられます。皮膚表面の水分も気化しやすくなり、入眠に適した環境になるのです。一方、空気が乾燥する冬は、反対に湿度を上げたほうが良いです。加湿をして眠ると、乾燥による喉の痛みを防いだり、風邪を予防したりなど体調管理面のメリットがありますね」
夏は高温多湿で冬は低温乾燥。季節ごとに湿度の変化が激しい日本では、湿度コントロールが快眠を得るための重要なファクターといえる。
重視すべきは体感温度
エアコンの除湿機能の注意点
冬は加湿器を使用すれば、比較的簡単に湿度の調節が可能だ。しかし、夏はエアコンで湿度をコントロールするのが難しい環境でもある。
「エアコンの除湿・ドライ機能は、部屋の温度よりも湿度を下げるのを優先するため、湿度が低くなるとともに、体感温度も下がりすぎてしまうケースがあります。『快眠モード』が搭載されているエアコンならば、就寝中も快適に過ごせるように温度と湿度を自動で調整してくれますが、すべてのエアコンについている機能ではありません。また、体感温度は個人差が激しく、家族と一緒に寝ている人は部屋全体の湿度調整が難しい点もこの季節の特徴です」
学術的には、夏は室温25℃、湿度40~50%、冬は室温19℃と湿度50~60%に保つのが良いとされている。しかし、舟山氏は「数字はあくまで目安と捉えてほしい」と話す。
「睡眠においては、本人が感じる心地よさが大切です。自分の寝室を学術的に良いとされる室温・湿度に合わせても、起床したときに疲れが取れていなかったり、しっかり眠れた感覚がなかったりすれば、睡眠の質が改善されたとはいえません。自分が快適に眠れる温度や湿度は、一人ひとり異なるという前提で調整していきましょう」
自分にとってベストな気温と湿度を探り、環境を整えるのが快眠への第一歩なのだ。
そして、夏は温度・湿度の外的要因だけでなく「快眠を妨げる眠り方をしている人も多い」と舟山氏は話す。
「近年は、朝まで冷房をつけたまま眠るのが一般的になりつつあります。しかし、高齢者のなかには、電気代が気になって冷房の電源を切って寝てしまうケースも散見されます。その場合、暑くて眠れないのはもちろん、熱中症リスクも高いので、熱帯夜は必ずエアコンを使用しましょう」
その一方で“エアコン冷え”に悩む人も増えているという。
「『眠りやすいから』と、冷房の設定温度を低くしすぎたり、除湿機能で体感温度を下げすぎたりするのは、あまりおすすめできません。暑さだけでなく、寒すぎる環境も眠りを浅くする要因になります。体感温度でやや涼しいと感じる程度が、睡眠に適した温度と湿度です」
また、エアコンの温度を低めに設定し、体に何も掛けずに眠る人も注意が必要。眠り始めは快適だが、時間が経つと体が冷えて睡眠を妨げることもあるそう。
そして、肌に触れるとひんやりと冷たさを感じる「接触冷感素材」の寝具も、使用方法に注意点があるという。
「今は『接触冷感素材』の掛け布団や敷きパッドをエアコンの効いた部屋で使用している人も多いですよね。どちらも使って快適に眠れるなら問題ありませんが、夜間に寒さで目が覚めてしまう人は、体が冷えすぎているサイン。眠りが浅かったり、何度も目が覚めてしまったりする人は、現在の寝室環境が体に合っていない可能性が高いです」