セブン買収提案「5兆円」は対日投資残高50兆円の約1割、M&Aは貴重な“円安を活かす”カードPhoto:PIXTA

セブン&アイ・ホールディングスへのカナダのコンビニエンスストア大手による企業買収案件が明らかになった。日本の対内直接投資残高の対GDP(国内総生産)比率は、北朝鮮よりも低い。円安の今、企業買収による直接投資というカードはその重要性が注目されているだけに、実現可否にかかわらず本件の行方が意味するところは大きい。(みずほ銀行チーフ・マーケットエコノミスト 唐鎌大輔)

対内直接投資残高50兆円の日本に
持ち上がった5兆円の国内企業買収案件

 8月19日、本邦小売最大手企業であるセブン&アイ・ホールディングスに対し、カナダのコンビニエンスストア大手企業であるアリマンタシォン・クシュタールが買収提案を持ちかけたということが大きく報じられた。

 同社は「法的拘束力のない初期的な買収提案を受けていることは事実」とのコメントを発表している。本件に係る買収金額は実現すれば5兆円以上で海外企業による日本企業買収としては最大級とも報じられている。

 今回の報道は、折しも「円安を生かすカード」としての対内直接投資が注目を浴びているさなかでの出来事でもある。真相は当事者しか分かり得ないが、近年の大幅な円安傾向が事態の背景にある可能性も否めない。

 また、政府・与党は2023年6月に示された「骨太の方針」で対内直接投資残高について「2030年までに100兆円」を目標として掲げている。23年末時点の残高が約50兆円であることを思えば、1つの案件の規模が5兆円を超えるということがどれほど大きな話なのか分かるだろう(図表1参照)。

 この一報直後、為替市場では需給面から円の買い切りが想起され円高が進んだが、折しも日本政府が対内直接投資の呼び込みを国策として掲げる中、このニュースは実現可否にかかわらず、当面の大きな話題となることは間違いない。

 対内直接投資残高目標達成に、国内企業へのM&Aを生かさない手はない。次ページでは、日本の対内直接投資の動向を検証し、求められる戦略を考える。