ディール化しない外交・経済政策を!

 筆者はクライアントのコンサルティングに入る際に、まずは支出データをもらうようにしている。一定期間に、どこから何をいくらで調達したかのデータだ。すると、多くの場合、見慣れない海外企業名が目に飛び込んでくる。

「ここって何ですか?」。そう質問をすると、少なからぬケースで思い出話に花が咲く。

「ここはインドの鋳造会社なんですが、取引を開始したころは品質がひどくてね。現地に寝泊まりして一緒に品質を上げていきました」などと担当者の武勇伝も含めたエピソードを教えてくれる。

 そして、そうした話は安定した二国間関係があるからこそだと理解できる。ビジネスシーンの中でもサプライチェーンが関わる製造業は、中長期的な関係が前提となるので、政治的な安定性も欠かせない。相手国といつケンカするかもわからない状態では、なかなか海外企業とはうまくいかない。

 どこかの国と国が対立し、それがビジネスにも影響を及ぼすことになると、国内への投資や消費の回帰につながって、悪いことばかりではないかもしれない。しかしながら、販売先(マーケット)の意味でも外国は無視できない時代だ。政治の安定と経済の安定はグローバルに密接につながっている。政治のディールによって外交や経済の方針が変わると、ビジネス現場は右往左往してしまう。

 なお、個人的な所感を述べると、全ての国と八方美人に仲良くすることには反対だ。経済安全保障上、特定物資は西側諸国を中心としたサプライチェーン、あるいは西側だけで完結できるサプライチェーン網を二重化しておくべきだろう。