自民党の総裁選は多彩な顔ぶれが出馬して盛り上がっている。マクロ経済政策を明確に述べている候補者は少ないが、石破茂元自民党幹事長が、『保守政治家 わが政策、わが天命』(講談社)という著書を出版している。発刊が2024年8月7日だから、まさに「わが政策」を述べたものと理解して良いだろう。ここには、自治相も務めた父・二朗氏の思い出、田中角栄元首相との交流など、興味深いエピソードがつづられ大変面白い。だが、マクロ経済政策の考えについては疑問視せざるを得ない。石破氏の考えの問題点を指摘したい。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
石破氏が指摘する
副作用は存在しない
石破氏は、「異次元の金融緩和」では日本経済は治らない、と書いている。これを10年間続けた結果、日銀財務の悪化、財政規律の麻痺、銀行の体力低下などが起きているという。
もちろん、異次元緩和の効果は認めており、「円安・株高にシフトし、輸出製造業を中心に収益が増大し、失業率は低下、新卒学生の就職状況も随分と改善された。民主党政権下と比べて、やはり経済政策は自民党に限る、という評価が戻ってきたのも事実でした」と書いている(本書234-237ページ)。
しかし、「日銀財務の悪化、財政規律の麻痺、銀行の体力低下」などの副作用は大きいと指摘している。
要するに、効果よりも副作用が大きいのだから、緩和を止めろという主張になっている。だが、石破氏が副作用としているものは存在しない。
なお、石破氏が円安のおかげとして輸出製造業の収益増大を挙げる一方で、観光業におけるインバウンド需要の増大を挙げていないのは不思議である。インバウンドこそ、大都市だけでなく、地方を潤すものであるからだ。