日本旅行で日本製品「爆買い」から
体験型のコト消費へ中国人の志向もシフト

 10年ほど前まで、筆者は日本へ帰国するたびに、中国人の友人に「化粧品を買ってきて」「ドライヤーが欲しい」などと頼まれていた。日本製品は「品質がいい」「ユーザーの側に立っていて使いやすい」と評判で、何とか手に入れたいと願っていた。

 彼らの思いを体現したのが、15年ごろからコロナ禍前までよく聞かれた「爆買い」である。円安やビザの緩和などの影響から日本を訪れる中国人が激増し、日本ブランドの家電や加工食品、薬などを大量に買いまくっていたことは記憶に新しい。

 中国における「日本ブランド信奉」は、「改革開放」(伝統的社会主義経済から、社会主義と市場を結合させた経済への転換。1978年に決定、翌年実施)後の、中国人の消費が高度化する中で、地位を築いてきた。

 中国のSNS(WeChat)上から、中国人の日本製品に対する評価に関して、いくつか関連するコメントを紹介しよう。「日本企業は徹底的に市場調査をしたから中国市場で成功した」「ソニーの技術と設計理念は先進的。中国の消費者の好みに合う製品を生み出した」「日本製品は品質が良いだけじゃない。デザインも独特だ」など挙げればきりがない。

 今でこそ、中国企業は「売れるもの」を作り出そうとする姿勢をとり、顧客の意見も重視するようになった。が、例えば筆者が北京での生活を始めた20年ほど前は、スーパーやレストランの従業員は「売ってやる」「サービスしてやる」という態度で、お客の声を聞くという姿勢は全く見られなかった。

 また、当時、日本の食品は日本人が多く住むエリアに行かなければ売っていなかった。だが今は、ごく普通のスーパーでもブルボンの「バームロール」や人気銘柄の日本酒を見かける。ネット上でも日本製品を中心に売るECサイトがいくつもあり、消費のみなら、「日中関係は良好」と言えるだろう。

 一時期、日中関係は、政治がぎくしゃくしても経済は良好であるという「政冷経熱」という言葉で表現された。最近は、日本企業(主に製造業)が中国から撤退するなど「中国離れ」の報道が増えつつあり、「政冷経冷」ではないかと見られている。しかし、回転すしブームのように必ずしも全部が全部、そうではない。

 現在の中国人は、「非日常」の消費を重視するようになった。それゆえ「モノ」だけでなく「コト」の消費、体験型の消費が盛んだ。その筆頭格が外食であり、ホンモノの日本料理を食べることなのだ。