ひとくちにリーダーといっても、社長から現場の管理職まで様々な階層がある。抱えている部下の数や事業の規模もまちまちだ。自分の悩みが周りと同じとは限らず、相談する相手がいなくて困っている人も少なくないだろう。そんなときに参考になるのが、ゴールドマン・サックスなどの外資系金融で実績を上げたのち、東北楽天ゴールデンイーグルス社長として「優勝」と「収益拡大」をW達成した立花陽三さんの著書『リーダーは偉くない。』だ。本書は、立花さんが自身の成功と失敗を赤裸々に明かしつつ、「リーダーシップの秘密」をあますことなく書いた1冊で、「面白くて一気読みしてしまった」「こんなリーダーと仕事がしたい」と大きな反響を呼んでいる。この記事では、同書の一部を抜粋して紹介する。

星野仙一監督の“あり得ない決断”に学んだ「ビジネスですごく大切なこと」写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「データ」や「ロジック」で心は動かない

「スートリー」が人を動かす──。

 東北楽天ゴールデンイーグルス(以下、楽天野球団)の社長として経営に携わることで、僕はこのことを痛感させられました。

 僕なりに「ストーリー」の重要性は認識していたつもりでしたが、実際に経営者となることで、その深くて重い意味を体感することができたのです。

 的確な経営判断をするためには、正確な「データ」と緻密な「ロジック」が不可欠ですが、それだけでは本当の意味で「正しい判断」をすることはできない。「データ」や「ロジック」に万全を期したうえで、最後の最後に判断の拠り所になるのは「ストーリー」だということを思い知らされたのです。

 なぜなら、当たり前のことですが、社員もお客さまも「感情」をもった生身の人間だからです。

 どんなに「データ」や「ロジック」が完璧であったとしても、それだけで「共感」や「感動」を覚えてくれる人はこの世にはいません。その会社が歩む「ストーリー」に心を動かされるからこそ、社員は潜在能力を最大限に発揮してくれるのだし、お客さまは応援してくださるのだと思うのです。

星野仙一監督に学んだ「大切なこと」

 このことを、僕にまざまざと感じさせてくださったのは星野仙一監督です。

 特に印象的だった「ストーリー」をご紹介しましょう。あれは、僕が楽天野球団の社長に就任した翌年の2013年のシーズン終盤のこと。当時、楽天野球団で采配を振るっておられた星野監督の頭のなかには、明確な「ストーリー」が描かれていました。

 もちろん、星野監督からそう聞いたわけではありませんから、確証があるわけではありません。

 だけど、星野監督は、「闘将」というイメージとは裏腹に、ファンに喜んでいただき、シーズンを盛り上げるために、メディアなどと上手に付き合いながら、チームの「ストーリー」を描き出す“優れた脚本家”でしたから、あの局面において、明確な「ストーリー」を描いておられたに違いないと僕は確信しているのです。

 

星野仙一監督の“あり得ない決断”に学んだ「ビジネスですごく大切なこと」立花陽三(たちばな・ようぞう)1971年東京都生まれ。小学生時代からラグビーをはじめ、成蹊高校在学中に高等学校日本代表候補選手に選ばれる。慶應義塾大学入学後、慶應ラグビー部で“猛練習”の洗礼を浴びる。大学卒業後、約18年間にわたりアメリカの投資銀行業界に身を置く。新卒でソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。1999年に転職したゴールドマン・サックス証券で実績を上げ、マネージング・ディレクターになる。金融業界のみならず実業界にも人脈を広げる。特に、元ラグビー日本代表監督の故・宿澤広朗氏(三井住友銀行取締役専務執行役員)との親交を深める。その後、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に引き抜かれ、数十人の営業マンを統括するも、リーダーシップの難しさを痛感する。2012年、東北楽天ゴールデンイーグルス社長に就任。託された使命は「優勝」と「黒字化」。星野仙一監督をサポートして、2013年に球団初のリーグ優勝、日本シリーズ制覇を達成。また、球団創設時に98万人、就任時に117万人だった観客動員数を182万人に、売上も93億円から146億円に伸ばした。2017年には楽天ヴィッセル神戸社長も兼務することとなり、2020年に天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権大会で優勝した。2021年に楽天グループの全役職を退任したのち、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の創業者・鎌田秀也氏から相談を受け、同社社長に就任。すでに、仙台店、東京銀座店などをオープンし、今後さらに、世界に挑戦すべく準備を進めている。また、Plan・Do・Seeの野田豊加代表取締役と日本企業成長支援ファンド「PROSPER」を創設して、地方から日本を熱くすることにチャレンジしている。著書に『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)がある。