相場サイクル別「暴落危険度」、8月暴落後の相場で投資家が警戒すべきポイントは?Photo:PIXTA

8月の米日株、ドル円の暴落は、米景気・金利サイクルの変わり目で生じがちな典型的現象である。株式相場の暴落は、金融相場から業績相場、業績相場から逆金融相場、逆金融相場から逆業績相場への節目ごとに、危険度が異なる。今般の暴落後の相場は、下値の不安定さを当面くすぶらせるとみている。投資家として、何をチェックし、どう構えるか。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)

米景気軟着陸路線への
過度の楽観

 日本株、ドル円の相場は8月5日に歴史的な暴落症状を見せた。そこに至る導線は、米国の株と金利の下落である。その背景は、米景気の陰りであり、暴落へのきっかけとなった一押しは、8月2日公表の米雇用統計の悪化だった。

 もちろん、暴落の前から伏線はあった。米景気・インフレ指標の下振れは5月から続いていた。しかし市場は、この時点では、インフレ鈍化を伴う景気軟着陸をメインシナリオに据えていた。

 このため、米株は生成AI(人工知能)・半導体主導のラリーを続けた。米債券金利の軟化も、株には好感された。

 米債券(中長期)金利の低下に圧迫されるはずのドル円は、米政策金利(短期金利)が高止まっている限り、円キャリー取引の活況は変わらないと高をくくって160円台へ。米株高と円安という二大サポートを受けた日経平均株価は4万2000円へと上伸した。

 しかし、相場のもろさをうかがわせる兆しは、6、7月に表れていた。米株では、牽引役のエヌビディアなど生成AI・半導体株が、自律調整に入っていた。それでも、リバランスで景気・バリュー・中小型株が買われ、ダウ工業平均、S&P500やラッセル2000などの株価指数は堅調となり、市況解説では高値更新がはやされた。

 日本市場ははるかにきな臭かった。無効とされた日本当局の為替介入が一定の成果を上げていた。数カ月前には無視されたトランプ米大統領候補の円安牽制発言に、市場は敏感になった。さらに、日銀による利上げが0.25%程度では市場への影響は限られるとしていたはずが、いざ利上げとなると動揺した。

 その背景で共通するリスク要因は、米景気の陰りである。米景気観がいくらか下振れるだけで、これら相場の活況は終わりを告げる危うさがある、と筆者は呼びかけた。

 しかし、相場が活況の間、投資家は自分が欲しい「上がる」情報しか受け入れないものだ。私のSNSフォロワー数が、相場急落前に漸減し、暴落後に急増するのは、いつも良いバロメータになる。

 果たして、米日株式、ドル円の相場は8月初めに崩落した。しかし、比較的早く反発すると、市場では毎度おなじみの値動き追認論調で、「暴落、恐れるに足らず」「絶好の買い場だった」「暴落時に売り急ぎするべきではない」といった声が優勢になった。

 相場の暴落は、売るから下がる、下がるから売るという利益確定ないし損切りの悪循環が群衆行動になる現象である。いったんは、ファンダメンタルズ上の相場の適正水準はどこかという理知的な意識は吹き飛んでしまい、明らかに行き過ぎた下落になりやすい。

 したがって、相場が下げ止まると、まず相場の下げを狙うショート勢が買い戻しに走り、次にこの割安水準を狙う投資家の出遅れ焦燥買いが追随する。こうして値幅が大きく下落した後の相場は、相応に値幅が大きく反発を見せる場面がある。

 8月中旬には、この相場反発に、米PPI(生産者物価指数)、CPI(消費者物価指数)、小売り売り上げの3指標が絶妙な後押しになった。市場は、インフレ鈍化を好感しつつも、景気悪化懸念をくすぶらせていた。この状況でPPI、CPIは若干弱め、長らく低迷していた小売り売り上げは上振れて、景気が悪化するばかりではないという心証をもたらした。

 こうして、相場の反発は弾みをつけると、市場の楽観も補強された。しかし、慎重派の筆者には、この3指標の結果が若干ズレただけで、相場展開は異なったであろうという警戒が残った。

 相場の下地は、ファンダメンタルズ面からも、心理・行動学的にも、引き続きもろさがあるとして、9、10月へ慎重姿勢を呼びかけた。今度は、暴落の記憶が残っている分、投資家にいくらか受け入れてもらえたかもしれない。

 実は、暴落の危険度にはパターンがある。コロナ禍のように突然のリスクに対する暴落は別として、景気と相場のサイクルに沿って整理される。次ページではそのサイクル別に暴落の危険度を検証していく。