「中産階級」をターゲット
前向きなハリス副大統領の発言
一方で、ハリス副大統領を印象付けるキーワードは、「lift(上げる)」で、4回使われていました。例えば次のような使い方です。
「So I was raised as a middle class kid, and I am actually the only person on this stage who has a plan that is about lifting up the middle class and working people of America.」
(私は中流階級の子どもとして育ちましたが、実はこの壇上で、アメリカの中流階級と勤労者を引き上げる計画を持っている唯一の人間です)
「My values have not changed, and what is important is that there is a president who actually brings values and a perspective that is about lifting people up and not beating people down.」
(私の価値観は変わっていないし、重要なのは、人々を打ちのめすのではなく、人々を引き上げるという価値観や視点を実際にもたらす大統領がいるということです)
トランプ前大統領がひたすら目の前のハリス副大統領を叩くのに対して、ハリス副大統領はいかに国民をliftするかをテーマに、議論を展開しました。
加えて、「middle class(中産階級)」もキーワードです。先の発言でも強調されていますが、このキーワードはその後も何度か出てきています。例えば、次の発言。
「Economist have said that Trump sales tax would actually result for middle class families in about $4,000 more a year.」
(エコノミストは、トランプの売上税は中流家庭にとって年間約4000ドルの負担増になると述べています)
「I grew up a middle class kid raised by a hardworking mother who worked and saved and was able to buy our first home when I was a teenager.」
(私は中産階級の子どもとして、働き者の母の下に育ちました。母は仕事をして貯金をし、私が10代になった時に初めてマイホームを買うことができたのです)
このようにハリス副大統領は、自分自身が中産階級出身であり、大統領になった暁には中産階級を支援し復活させると強調しました。また、トランプは中産階級のためには政治をしていない、と訴えました。
総じて、トランプ前大統領が漠然としたネガティブ・ワードで民主党に対する攻撃を繰り返すだけだったのに対して、ハリス副大統領は視聴者である中産階級に対して前向きなメッセージを打ち出しました。
最後に、言葉遣いだけでなく、視線についてもハリス副大統領の方が優れていたと思います。カメラ目線がほとんどなかったトランプ前大統領と比べて、ハリス副大統領はカメラ目線が多く、視聴者に訴えかけている印象を強く与えました。
スピーチやプレゼンテーションでは、発言の内容はもちろん、視線や身振り手振りも総合的に勘案されて評価されます。そのため、今回の討論会ではハリス副大統領に軍配が上がったと私は思います。