組織は一度でカルチャーを変えることは困難
少しずつ成功体験を積み重ねていく
島田 スポーツ界にこだわっていたというわけではなく、たまたま千葉ジェッツの再建の時に声をかけていただいて、1年だけという約束で、千葉ジェッツの社長に就任しました。
その間、たいそうなことをやっていたわけではなく、「選手たちの成長を手伝いたい」「がんばっている職員や選手の給料を増やしてあげたい」と目先のことを必死にがんばっていたら、オーナーからもうちょっとやってよと言われ、気づいたら7年もやっていたんです。
組織が私の色に染まるのはサスティナブルではないなと思い、次世代に任せるため退任したところ、これも偶然ですが、B.LEAGUEチェアマンのオファーをいただきました。
ウルヴェ 情熱的過ぎず、現状を俯瞰(ふかん)して淡々と改革を進めていった。
島田 もちろんパッションを持って、スタッフを鼓舞したりしました。でも千葉ジェッツに来た時は、誰も私を信用してくれませんでした。「よくいる、ちょっとスポーツ界に来て、そのまま去っていく人だよね」と(笑)。「おまえ、バスケをやったことあるのか」「スポーツの厳しさを知らないだろう」「あなたの言うようなロジックを振りかざしたところで簡単にはスポーツ界は変えられない」といったことも言われましたし、皆からの信頼を得るまでに2年かかりました。
組織というのは、一度でカルチャーを変えることは難しく、少しずつ成功体験を積み重ねることで、「こいつについていけば、もしかしたら私たちは変われるかも、いいことがあるかも」と思ってもらえるようになる。初めて選手たちにボーナスを出せたのが着任から2年後。その時初めて、少し選手たちが素直に返事してくれるようになりました。それまでは、反発されまくりでしたよ(笑)。
ウルヴェ なるほど、改革を行うにも「質の良い情熱」が大事ということですね。
宮本 サッカークラブでは、チームを良くして、結果、組織も成長するということはありますが、逆のケースはなかなかありません。でも島田さんの千葉ジェッツ再建では、それを実現して成功に導かれたのがすごいと思います。職員の待遇を向上させたい、給与を上げたいというとき、人事評価制度はどのようにつくられたのですか。
島田 大企業の人事評価制度を持ってきたとしても、そこまで重厚感のあるシステムはそぐわないと思ったので、基本的には手作りです。
小さな成功体験の積み上げでモチベーションをアップし、次のチャレンジへ、また次のチャレンジへといった形で、皆の気持ちが前を向くようにする。「◯◯を実行すれば評価する」のように小さな目標でもクリアしたら評価する。それに対して昇給やボーナスを反映し、公平に報いるようにする。そういった、人事評価の根本を意識しながら、まずは大枠をつくっていきました。
組織づくりに関しては、もしチームが順調な時期であったなら、もう少し、ビジネスとスポーツとのバランスを考えていたかもしれません。両方のバランスが取れていることが本来はベストですからね。私がバスケットボール選手の経験がなく、ルールすらほとんど知らなかった人間で、また、赤字続きでどうしようもない状態だったので、ビジネスアプローチによる改革に迫られたというのが実情です。
実業団や、日本代表経験者など、バスケットボールの専門的な知識を有する人材は多くいます。とはいえ、試合に勝てば観客が増えてもうかるかといえば、多少チームが変わったぐらいでは大幅な増収は見込めません。「試合に勝つ」という意味でのチームづくりにどれだけ熱心でも、きちんとお金を稼がなければ、つまりビジネスとして成り立たなければ、皆に給料を払えません。
他のチームが苦戦する中で千葉ジェッツがビジネス的にも急成長したのは、慣習や常識にとらわれずにビジネスアプローチをしたことが、結果的に良かったのではないかと思っています。
30代で何をすべきか?
チェンジリーダーたちの提言
ウルヴェ 今回のイベントの参加者は30〜40代の方が多いと聞いています。不確実な社会の中、こうした世代の方々が組織の中で成長するために、何が大切だと思いますか。
宮本 新しい環境に身を置く、新しいことを知る、新しい人と知り合う。選手時代、どこから声がかかっても生きていけるように、常に自分に「負荷」をかけ、自分を磨いていく、そのような意識を持っていました。そのほうがおもしろいですからね。
島田 すごい選手はどの監督にも呼ばれるんですよね。企業においても、上司が変わったらパフォーマンスが下がるのではなく、つぶしが利いて、どこへ行っても欲せられる。それが価値の高いビジネスパーソンであり、プレイヤーであると思います。
そうなるためは、ある種の「ハードワーク」(※)が必要です。30代でのハードワークなくして40代はなく、40代のハードワークなくして50代はない。人生は積み上げていくもの。30代のハードワークこそがその後の差別化となり、強みを発揮すると思います。
※物理的な労働だけを指すのではなく、ここでは、精神的な努力や、時間を要する難問に対する取り組みのこと
そしてチャレンジです。宮本さんは「負荷」ともおっしゃいましたが、チャレンジというものは、これまで基礎体力がなかった部分に負荷がかかるので、つらいんです。筋肉痛になるかもしれません。でも筋肉痛になったところに、新たな筋力が備わる。やったことがないからと怖れるのではなく、とにかくやってみる。そうすれば、新たな力が身につくはずです。
あとは、ニコニコしていることです。やはり笑顔は最強ですよね。笑顔の周りに人が集まるし、情報も集まる。情報が集まると、正しい判断ができる。それは組織の長でも、現場のスタッフでも、同じだと思います。
森林 言いたいことはたくさんありますが絞ると、私は2つあると思っています。ひとつは「人間力」です。学校で学んできたことも大事ですし、短期的な成果も大事ですが、「この人なら」と任せてもらえるかどうかは、人間性、人間力に負うところが大きい。ですので、短期的な小さなことだけでなく、人から頼られるようなでっかい人間をめざしてほしいです。
もうひとつは「独自の視点を大切にすること」です。30代40代であれば、それまでの人生で、その人しか経験していないことや、他人とは違う見方があるはずです。
例えば私は高校野球の監督ですが、小学校で3年生の担任もしています。この2つを兼任している人はほかにいないと思います。朝、小学校で授業をして、生徒たちと一緒に給食を食べて、放課後は一緒に遊ぶ。その後、高校のグラウンドへ行くと、高校生がめちゃくちゃ大人に見えるんです。「集合!」と言えば集合してくれるんですから(笑)。
でも、多くの高校野球の監督は、「高校生は子どもだ」と考えている人が多い。私は高校生はもう「大人」としてみなし、その視点で、体力・計画性・意志などを引き出す努力をしています。
一方で、疲れ知らず、怖いもの知らず、目の前のことに夢中になる、チャレンジするといった部分は「子ども」としての良さだとも思います。大人と子どもの両方の良さを引き出したいと思えるのは私独自の視点であり、同様に皆さんにも独自の視点が必ずあるので、その見方を大切にして、差別化するポイントや強みにつなげていくと、いいと思います。
ウルヴェ 最後にあらためてお聞きしたいのは、何のために組織は成長するのかということです。
「組織の生産性を高めるため」「個がワクワクするため」「イノベーティブな発想をしていかないと社会で生き残っていけないから」など、いろいろな考えがあると思います。お三方はどのようにお考えでしょうか。