要介護者と親族が笑顔で
接するために必要な距離感
現に介護施設からひっきりなしにメッセージが届くのは、良子ではなく、遠藤のスマートフォンだ。
〈下着や服の替えが欲しいので、買ってきてください〉〈今日、〇〇さんが失踪しました〉〈トイレブラシを買ってきてください〉
遠藤は、その中から必要な情報を取捨選択して良子に伝え、必要なものは遠藤が代行して買い出しも行う。
「気持ち的にすごく楽よ。もしものことがあっても遠藤さんがいるから、ちゃんと始末はしてもらえるから」
良子の口からは、躊躇もなく、“始末”という言葉が飛び出す。
「要介護者と親族が笑顔で接することが一番だと思います。ニコニコして介護できる状態を作るのが一番。100%満足する介護はないけれど、憎しみを減らすことはできる。
最後は、親族もただ、故人にお疲れ様って言えるのが一番良い、と思うんです。これだけ人と人がバラバラになっている世の中で、今さらその関係を修復しましょうというのも、無理があるんですよ」
遠藤の言葉に良子も頷く。
「本当にそう。遠藤さんに間に入っていただいているから、こうやって笑顔でいられるんです。これを全部1人でやってたら、兄の顔を見るのも嫌になって、冗談じゃないわとなっていた。人間としての尊厳を守るためにも、常にニコニコしていたいのよ」