上場企業に対して資本効率の改善やコーポレートガバナンス改革の圧力が強まる中、豊富なキャッシュを持つオーナー企業の上場維持メリットが問われている。実際、大正製薬ホールディングスは過去最大規模のMBO(経営陣による買収)で非上場化を選んだ。ダイヤモンド編集部は、大手銀行が実際に使う指標を用いて「非上場化しやすい」オーナー企業ランキングを作成した。特集『オーナー企業ランキング2024年版 上場1580社の全序列』の#2では、作成した「非上場化しやすい」オーナー企業ランキングを基に、第二の大正製薬を探った。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
大正製薬が日本最大のMBO
上場維持コストの回避も狙った
一般用医薬品(OTC)業界の最大手である大正製薬ホールディングス(HD)が2023年11月に実施したMBO(経営陣による買収)は、普通株の買い付け総額で7000億円を超える過去最大のものとなった。
OTC市場が伸び悩む中で競争が激しくなり、業績が低迷していた大正製薬HDは、ECサイトの拡充や海外事業の拡大、新薬開発に向けた中長期的な成長を目指すべく、非上場化に踏み切った。
上場廃止という大胆な経営判断を実行できたのは、大正製薬HDがオーナー企業だからといえる。創業家の上原家一族が、大正製薬HDの全株式の約40%を保有し、大正製薬HDの歴代トップは上原家から輩出してきた。
大正製薬HDの非上場化について、社歴が100年を超える上場オーナー企業のある首脳は「非上場化に向けて用意周到に準備してきたのではないか」と、同じオーナー企業のトップとして思惑を感じ取る。
というのも、大正製薬HDは22年4月の東京証券取引所の市場再編で、最上位のプライム市場の基準を満たしていたのにもかかわらず、スタンダード市場を選択したのだ。その理由について、大正製薬HDの上原茂副社長(当時、現社長)は「プライム上場企業に求められる対応に、われわれが重要だと考えていないことが多く含まれていた」と決算説明会で述べていた。
少数株主や外国人株主への配慮、財務・非財務情報の英文による情報開示など、東証が求めるコーポレートガバナンス・コードの順守徹底について、スタンダード市場よりプライム市場の方がより条件が厳しい。そのため、プライム市場の場合は上場維持コストが重くのしかかり、スタンダード市場であればそのコストを回避できる。ただしプライム市場の厳しい水準が、いずれスタンダード市場にも適用されることが予想されていた。
大正製薬HDは自己資本比率が80%を超え、実質的な無借金経営を誇るキャッシュリッチな企業。創業は1912年で社歴が100年を超える長寿企業のため信用力も高く、わざわざ市場から資金を調達する必要もなかったといえる。ご長寿オーナー企業である大正製薬HDにとって、上場を維持するメリットは薄らいでいたのである。実際のところ、非上場化に関するプレスリリースで、大正製薬HDは「上場を維持することの必要性を見出しにくい」としていた。
東証改革を受けて大正製薬HDのように、非上場化を検討するオーナー企業は少なくないとみられる。果たして「第二の大正製薬」は現れるのか。
そこでダイヤモンド編集部は、「非上場化しやすい」オーナー企業ランキングを作成した。
東証の市場再編に伴い、東証1部またはプライム市場からスタンダード市場に移行した企業をピックアップ。その上で、ファミリービジネス、いわゆるオーナー企業を研究する日本経済大学大学院の後藤俊夫特任教授らが刊行している『ファミリービジネス白書』(白桃書房)の最新版で、オーナー企業と定義された90社をランキングの対象とした。
ランキング作成に当たっては、大手銀行が実際に活用している指標「MBOレシオ」を参考とした。
次ページでは、スタンダード市場に所属する90社を対象にした「非上場化しやすい」オーナー企業ランキングをお届けする。15位に乾汽船、2位に北野建設がランクインした。果たして1位は――。