「やれるか」には「やります」だろ?
ドラマの話だけじゃない多くの悪役支店長

 テレビドラマなどでは、銀行の支店長は大抵が悪者として登場するが、狭い環境で一番偉くなると、権力を手に入れ誇示したくなるのだろうか。私は支店長になったことがないので、その気持ちは分からない。

「支店長車の件は副支店長から聞いてるね。『できる』だろ?『やれる』よな?なあ?」

「は、はい…」

「まあいいや。最初だから。でもさあ、『やります』って返事してほしいんだよね。『やれるか』って聞いてるんだから『やります』だろ?『できるか』って聞いたら『できます』じゃん。『は、はい…』って何なの?」

「はあ…」

「オレより年上の目黒課長様に向かって、最初から小言ばかりですいませんね。あまりにもオレにフィットしなかったもんだから、ちょっと言わせてもらっただけですよ」

 いつしか、自分より年下の支店長や副支店長ばかりになった。彼らの目からは、ロートルの課長である私が、どのように映っているのだろうか。

「副支店長!今言った4件、目黒課長に任せる職場環境改善のPDCAにしといて」

「はい、やります」

書影『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)
目黒冬弥 著

「やります」と答えるあたり、副支店長も2日間ですっかり洗脳されているようだ。この支店長はその後、劇的な銀行員人生の終わりを迎えるのだが、それはまたの機会に記そうと思う。

 多くの読者は「M銀行はなんと愚かな企業なのか」とお思いだろう。だが、たまたま違うメガバンクの人と会った際に聞いてみたところ、程度の差はあれど、似たり寄ったりのヒエラルキーを抱えているらしい。

 私が支店長になっていたら、同じことをしただろうか。少なくとも、みなとみらい支店内食堂の昼ごはんは美味しい。コテコテのソファも不自由を感じない。白いワイシャツに不快な印象はない。わがままは家でやってもらいたい、ただそれだけだ。

 この銀行に勤め続け、四半世紀。喜びもあり、悲しみもあった。今日もこの銀行に感謝しながら、私は懸命に勤務している。

(現役行員 目黒冬弥)