世界に多大な影響を与え、長年に渡って今なお読み継がれている古典的名著。そこには、現代の悩みや疑問にも通ずる、普遍的な答えが記されている。しかし、そのなかには非常に難解で、読破する前に挫折してしまうようなものも多い。そんな読者におすすめなのが『読破できない難解な本がわかる本』。難解な名著のエッセンスをわかりやすく解説されていると好評のロングセラーだ。本記事では、『真理の言葉(ダンマパダ)』を解説する。
日本に伝わった仏教は、お釈迦様の直接的な教えではない。では、釈迦オリジナルの教えとはなんだったのか? 覚者としてのブッダの言葉を詩の形式で集めた経典。仏教のすべてはここから始まった。
基本的な仏教をおさらいしてみよう
『真理の言葉(ダンマパダ)』(法句経)は、仏教の教えを短い詩の形式にした仏典です。
『スッタニパータ』とともに釈迦入滅後の時期の経典の中でも、早い時期にまとめられたと考えられています。つまり、釈迦の残した言葉にもっとも近いわけです(それぞれ、中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』<岩波文庫>として訳されています)。
この語録は、非常にシンプルで、かつ心に深く響く教説が続いていくのが特徴となっています。
「実にこの世においては、怨みに報いるに怨みを持ってしたならば、ついに怨みの息(や)むことがない。怨みをすててこそ息む。これは永遠の真理である」(同書)
あるいは「他人の過失を見るなかれ。他人のしたこととしなかったことを見るな。ただ自分のしたこととしなかったことだけを見よ」というように、私たちの生活にすぐに取り入れることができるような教訓が並んでいます。
後半では、「生老病死」の四苦が説かれています。「生老病死」とは、生まれる苦しみ、そして、年老いていき、病と死がまっているという苦しみです。
「この容色は衰えはてた。病の巣であり、脆くも滅びる。腐敗のかたまりでやぶれてしまう。生命は死に帰着する」(同書)
この句は、見なかったことにしたいようなキツい教えです。
しかし、実はこういうことを、生きていく上で、できるだけ早めに自覚しておく方が、結果的に人生全体の苦しみが和らぐのです。
苦しみから脱出する方法はこれだ!
人生の根本は苦しみですから、これを四法印では「一切皆苦」といいます。
人生のゴールが老病死というのは、なんとも悲しい現実です。では、どうすれば、この苦しみから脱することができるのでしょう。その道標が「四つの尊い真理」(四諦)です。
それは、(1)「苦しみ」、(2)「苦しみの成り立ち」、(3)「苦しみの超克」、(4)「その方法」です。
まず、私たちの苦しみに満ちた人生は、誰のせいでもなく、自分自身の心が作り出す煩悩によるものです。だから、初期の仏教では、神のような存在に頼って救ってもらうという考え方をもちません。
「ものごとは心に導かれ、心に仕え、心によって作り出される。もし人が汚れた心で話し、行動するなら、その人には苦しみが付き従う。あたかも車輪が、それを牽く牛の足に付き従うように」(同書)
このように厳しい教えが初期の仏教の特徴です。
自分の蒔いた種は自分で刈り取らなければなりません。すべての存在が、「縁起」によってつらなっているとされ、原因と結果が密接に結びついています。
また、「私」という存在も私のものではないのです。ましてやあらゆる所有物は幻想です。
「わたしには子がある。わたしには財があると思って愚かな者は悩む。しかしすでに自己が自分のものではない。ましてどうして子が自分のものであろうか。どうして財が自分のものであろうか」(同書)
仏教では、「私」は本質のない存在であり、これは「無我」と表現されます。自分の中に「私」を探したところで、それはどこにも見つからないのです。
人間の存在を構成する要素は「色・受・想・行・識」(五蘊)です。
私はパーツの寄せ集めであり、すべては縁起の法で貫かれている。こうして修行の末に煩悩を滅することで、輪廻から脱出(解脱)して、涅槃に入るとされました。
この初期の仏教は、大乗仏教によって、大きな展開をみせることになります。
富増章成(とます・あきなり)
河合塾やその他大手予備校で「日本史」「倫理」「現代社会」などを担当。
中央大学文学部哲学科卒業後、上智大学神学部に学ぶ。
歴史をはじめ、哲学や宗教などのわかりにくい部分を読者の実感に寄り添った、身近な視点で解きほぐすことで定評がある。
フジテレビ系列にて深夜放送された伝説的知的エンターテイメント番組『お厚いのが、お好き?』監修。
著書『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0 現代人の抱えるモヤモヤ、もしも哲学者にディベートでぶつけたらどうなる?』(Gakken)、『日本史《伝説》になった100人』(王様文庫(三笠書房))、『図解でわかる! ニーチェの考え方』、『図解 世界一わかりやすい キリスト教』『誰でも簡単に幸せを感じる方法は アランの『幸福論』に書いてあった』(以上、KADOKAWA)、『超訳 哲学者図鑑』(かんき出版)、『オッサンになる人ならない人』(PHP研究所)、『哲学の小径―世界は謎に満ちている!』(講談社)、『空想哲学読本』(宝島社文庫)など多数。
【著者からのメッセージ】
私たちはなぜ本を読むのでしょうか。それは「本は人類が積み上げてきた叡智のアーカイヴだから」です。本は、人に知識や喜怒哀楽すべての豊かな経験を与えてくれる存在です。ときに読んだ人の人生を変えてしまう本だってあるでしょう。
この本で紹介しているのは、本のなかでも特に多くの人に読み継がれていたり、あるいは数千年という時を経ても今なお読まれている本、つまり「名著」です。
「名著」にはそう呼ばれるだけの理由があります。たとえば多くの人が今悩んでいることのほとんどは、この長い歴史上で誰かがすでに徹底的に考えていることです。紀元前という昔に遡っても、人間はやはり人間なのです。だから、もしあなたに悩みや、疑問に感じていることがあるなら、それらの答えのヒントはほぼ「名著」のなかにあるのです。
「目標がないし、やる気も出ない」「思考が乱れて集中できない」「健康なのに、なぜか疲れを感じる」「勉強したいが、どこから何をしたらいいのかわからない」「働いても働いても、楽にならないのはなんでだろう」「歳をとってきて、だんだん楽しみが減ってきた」
そんな悩みは、この本で紹介する「名著」のエッセンスを手に入れればたちまち解決するはずです。自分で思い悩むよりずっと気分が晴れること、請け合いです。
ところで、「名著」の多くは、とても難解で、それでいて分厚いものが多いです。しかし、名著が難解なのには、実は理由があります。分厚い古典的「名著」は、その時代背景と常識を前提として書かれているので、多くの場合、現代の私たちにとっては説明不足なのです。また、その学問世界の専門用語を「知ってるんでしょ?」という前提のもとに書かれていますから、こっちはわかるわけがない。
「名著」は、下手をすると一冊をしっかりと理解するのに20年以上かかります(それでも、さらに疑問は増えていきます)。普通に生きて普通に暮らしている私たちには、そんな時間はありません。つまり、「名著」とは基本的に「読破することができない本」なのです。
人生は短い。だからこそ「名著」をまず、おおざっぱに理解して、興味が出たら原典にあたればよいのです。この本では、古今東西の「名著」のうち哲学から心理学、経済学まで選りすぐった60冊のエッセンスをイラストとともにわかりやすく解説していきます。
※収録した60冊は、『ソクラテスの弁明』(プラトン)、『方法序説』(デカルト)、『実践理性批判』(カント)、『現象学の理念』(フッサール)、『歴史哲学講義』(フッサール)、『ツァラトゥストラはこう言った』(ニーチェ)、『存在と時間』(ハイデガー)、『存在と無』(サルトル)、『自由からの逃走』(フロム)、『社会契約論』(ルソー)、『資本論』(マルクス)、『論理哲学論考』(ウィトゲンシュタイン)、『グーテンベルクの銀河系』(マクルーハン)、『ポストモダンの条件』(リオタール)、『複製技術時代の芸術』(ベンヤミン)、『アンチ・オイディプス』(ドゥルーズ&ガタリ)、『21世紀の資本』(ピケティ)など。
もちろん原典と比べてその情報量は雲泥の差です(本書の場合、500ページ以上ある本も見開き4ページにまとめているのだから)。でも、なんにも読まないよりずっといいでしょう? そう思いませんか。分厚い本を一冊買って、読まないで部屋に飾っておくより、本書を電車の中で読んだほうがよいのではないでしょうか。
必ずしも時代順になっていないので、どこから読んでもOKです。パラッとめくって、全体を眺め、どんなふうに自分の役に立ちそうかを考えます。それぞれの本は、関連を他のページとリンクしてあります。つながりの意味については、本書の冒頭に収録した「ひと目でわかる名著の関連図」を参照してください。
ぜひ本書を活用して、自由な思考法を手に入れて、人生の難問解決をはかり、明日に向かって進んでください。きっと、すばらしい未来が広がっていくことでしょう。