メンタル調整に長けた上司と
不慣れな部下には見えない溝が存在

 特に会社の組織構造の面から気をつけなければならないのは、職位が高くなればなるほど、比較的メンタルコントロールに長けた方が多く、メンタル不調になる社員はスキルが低い、実力がない、と考える方が多くおられることです。

 そのため、部下は上司に更に相談しにくくなっています。企業において従業員に対するメンタル不調対策が進まないのは、決裁権限者のメンタルヘルスに関する認識が影響している背景もあります。

書影『社員がメンタル不調になる前に 会社の責任?それとも……?』(日本能率協会マネジメントセンター)『社員がメンタル不調になる前に 会社の責任?それとも……?』(日本能率協会マネジメントセンター)
藤田康男 著

 最後に、身近な存在である家族、友人にこそ相談するのが難しいという方々がいます。それは、モヤモヤの原因がそもそも家族、友人だったりするからです。このような場合、当該の社員は八方塞がりで、自分の想いのはけ口がない状況です。

 また、人事労務担当者は、会社の関係者にあたりますから、積極的に本人の本音を聴くことはできないでしょう。しかし、そのような状況が起こる可能性を念頭におくことで、社員の本音や問題の本質を理解できるはずです。

 このように、会社と社員との間には、仮に相談したいと思っても相談できない、そんな心理的な構造が成立しているため、「合理的に」悩みを言えない実情が生まれているのです。