「政治家を選ぶこと」は
「政策を選ぶこと」ではない

 住民投票から選挙に話を移そう。大阪都構想が否決された約半年後、橋下氏が率いる「大阪維新の会」は、大阪府知事と大阪市長のダブル選挙で勝利した。この結果を受け橋下氏は「都構想の案をバージョンアップしていくという民意が示されたのではないか」とコメントした(注1)。

 でも、知事や市長のみならず政治家を選ぶ代表選挙は、個別の政策を選ぶ直接選挙ではない。それでもこのように、選挙の結果が特定政策への支持と意味づけられることは多い

 2005年に小泉首相が「郵政民営化への信を問う」と言って衆議院を解散したときには、小泉首相はその衆院選が郵政民営化への賛否を問うものだと意味づけた。でもそのような意味づけのもとで選ばれた国会議員も、任期中にはさまざまな仕事をする。決して郵政民営化のみに従事するわけではない。

 そもそも政治家を選ぶことと、政策を選ぶことは、まったくもってイコールではない。たんに思想的にあるいは概念的に違うだけではなく、選択の結果として起こることに、論理上の大きな隔たりがある。その乖離のありさまを鮮明に示したのが、これから見ていくオストロゴルスキーのパラドックス(逆理)だ。

注1 時事通信ニュース2015年11月26日

直接選挙と間接選挙で結果が逆になる
「オストロゴルスキーのパラドックス」

 いま5人の有権者がいて、政党AとBがあるとしよう。選挙で争点となるテーマは3つ、「金融」「外交」「原発」だ。各テーマについて政党AとBはそれぞれ政策を掲げている。

 有権者はこれら3つのテーマを同程度に重視しており、各自の政党への支持は図表1-1のとおりとしよう。例えば有権者1は、金融と外交についてはA党を支持、原発についてはB党を支持、総合評価としてはA党を支持する。

 ここで過半数の有権者1と2と3は、総合評価としてはAを支持する。だから両政党が擁立する候補へ選挙を行うと、これら3人の支持によりAが勝つ。つまり間接選挙だと、すべてのテーマでAの政策が採られることになる。

 でも直接選挙なら結果は一変する。ここでAやBを政策と見なすと、すべてのテーマでBが過半数の支持を得る。つまり直接選挙と間接選挙では結果が正反対になるわけだ。

 これを見ると、選挙の結果をたやすく民意と呼ぶ気にはなれない。政党だって、政治家だって、選挙で勝ったから「民意に支持された」というわけではない。

政策の「抱き合わせ販売」は
有権者の利益を損ねている

 選挙では各党がマニフェストという政策集を発表するが、これは政策の「抱き合わせ販売」である。だからオストロゴルスキーのパラドックスのようなことが起こる。

 市場で企業が抱き合わせ販売をすると、世間から非難を浴びるし、公正取引委員会から警告や排除措置命令が出される。選挙で政党が政策を抱き合わせ販売するのは、独占禁止法的な観点からいうと、有権者の利益を損ねている

 選挙は、ワープロソフトと表計算ソフトを別のソフトウェア会社から購入できるような仕組みになっていないのだ。ここだと「金融A、外交A、原発A」という抱き合わせか、「金融B、外交B、原発B」という抱き合わせ2つのうち、どちらかしか選べない。ほかの3つ目の選択肢、例えば「金融A、外交B、原発A」は選べない。