また、多くのユーザー企業がITをコスト削減手段と見なし、社員のITスキル向上に投資しなかったことで、特定のベンダーに依存する「ベンダーロックイン」状態が発生し、経営の柔軟性が損なわれました。ベンダー企業も特定のカスタマイズに注力し、効率的な標準サービスの提供を避けてきました。
このような構造は技術開発への投資を阻害し、日本のデジタル産業の成長を妨げています。ソフトウェアファーストとは、単に技術の問題だけでなく、人と組織の意識改革を含む概念です。この変革なしには、日本はデジタル時代に遅れを取り、国際競争から取り残されるリスクさえあります。挑戦を恐れず、変革を受け入れる姿勢が、日本が再び世界で輝くために必要な鍵なのです。
責任の所在の明確さと
決定へのコミットが重要
『ソフトウェアファースト第2版』の中から「人と組織を変える方法」として、いくつかの考え方を紹介しましょう。
●責任の所在を明確にする
プロダクトの成功には、責任の所在を明確にすることが極めて重要です。日本企業では、プロダクト責任者が複数人いたり、極めて高い職位の人が責任者になったりすることが多いですが、これには問題があります。
複数人で意思決定する場合、往々にしてリスクを取らない無難な結論に落ち着きがちです。また、高位の責任者だけでは、日々の細かい意思決定に対応できません。
責任者のアサインは、プロジェクトの規模や複雑性に応じて適切なレベルで行う必要があります。例えば、アマゾンの「シングルスレッド型オーナーシップ」では、1つのプロジェクトやプロダクトに対し、専任の責任者を明確に決めます。また、アップルの「DRI(Directly Responsible Individual:直接責任を持つ個人)」でも、特定のタスクやプロジェクトに対して、直接的な責任を負う個人を設定します。
こうした方法で責任の所在を明確にし、適切なレベルで責任者をアサインすることは、組織のスピードと柔軟性を保ちつつ、プロジェクトの成功を確実にするために不可欠です。