「親が子どもにしてやれるコトって教育しかないんですよ。いくら莫大な遺産を残してやっても、子どもがバカだったらすぐに失ってしまいますからね。スイスのプライベート・バンクなんかだったら、子弟の学校の世話までしてくれるんですよ。彼らのテーマはいかに資産を守るかってことなんですが、そのためには子どもの教育をしっかりやることが大切だって分かっているんですよね」

情報収集にぬかりない
「お受験パパ」

 そう力説するのは39歳の広告デザイナー。スイスのプライベート・バンクに運用を任せるほどの資産をお持ちのようには見えないが、プチ・リッチ風で、年収1400万円。

 「なにしろ、スイスあたりの花嫁学校でもね、カリキュラムの中心はお料理やテーブル・マナーじゃないんですよ。語学とIT技術と経営学。彼女たちは将来、欧米の資産家に嫁ぐわけですから、夫のビジネスをサポートするためには、これらが大事というワケなんですよ。もちろん、彼女たち自身も資産家の娘ですから、自分でビジネスをやることも多いので、そんな教育が必要なんです」

 最近は、子どもの教育に熱心なお受験パパが増えているが、彼のように話がスイスにまで飛んでしまう人はまだ珍しい。そろそろ自分の娘をスイスの花嫁学校とやらに学ばせたいという話かと思ったら、彼の娘はまだ3歳。幼稚園もこれからだ。

 もちろん、幼児教育に関する情報収集にもぬかりがない。

 「とりあえず、4つぐらいのスクールに見学に行ったんですけどね」

 最近は、幼稚園ではなくてスクール、またはプレスクールと呼ぶ人も増えているようだ。

 「どこも中途半端でねえ。アメリカ的な方法を取り入れているところもあるし、日本的な礼儀作法を重視しているところもあるし。どこの教育方針もそれなりに説得力はあるんですが、もっとこう、総合的にいい教育をしてくれるスクールってないもんでしょうか?」

 総合的と言われても、彼がなにを求めているかによるだろう。さっきまでスイスの学校の話をしていたのに、今度はアメリカ方式と日本伝統方式の選択で悩んでいる。

 「でもまあ、うちの娘もまだ3歳ですから。やっぱり知育が大切ですよね。今、ヨーロッパでも大学の崩壊が問題になっていて、まともな教育ができるのはイギリスと北欧の大学くらいだと言われていますが、やっぱり北欧の知育教育って優れてるんですよね」

 話はまたヨーロッパにもどる。しかも今度は大学だ。こんな調子で彼は、世界の教育事情について彼が理解している範囲で1時間以上も一方的に説明してくれた。もちろん、彼が娘にどんな教育を施したいのか尋ねてみたのだが、要領を得ないまま、彼は情報を披露するだけだ。