電話口で名乗らない、グループメールアドレスから発信する、メールの個人署名がない……個人名を明かさない“カオナシ族”が増えている。自己開示を拒む状況を放置すると、組織のエンゲージメントは一気に低下してしまう。(モチベーションファクター代表取締役 山口 博)
「名乗らない」ビジネスパーソンが増える
真の問題とは?
先日、取引先企業のA部長と直接話したいことがあり、電話をかけた。、Aさんは不在とのことで、電話口に出てくださった方に、伝言をさせていただいた。
電話口に出た方は、名乗ってくださらなかった。私は常々の習慣で、連絡の行き違いがあればいけないと思い、「ご親切に伝言を預かっていただき、ありがとうございました。どちらさまですか?」とお聞きしたところ、「個人情報の観点から、名前のお伝えは控えさせていただきます」との返答があった。
私はとても驚いた。Aさんが名乗らなかったことは、たまたま話の流れでそうなっただけだと思い込んでいたが、強い意思があって名前を伏せていたのだ。
電話に出たら、所属と氏名を名乗るというのは、ビジネスマナーの基本だと思っていたが、個人情報の観点から、名乗るべきではないという考え方が流布し始めているようだ。
スタジオジブリ映画『千と千尋の神隠し』に「カオナシ」というキャラクターが登場する。黒い影のような体にお面のようなものを付けていて、文字通り素顔が見えない。相手を飲み込んでしまうのだが、飲み込んだ他人の声を借りれば会話ができるが、個性を持たない――。
仮に個人情報保護の観点といえども、電話で名乗らない、いわば“カオナシ族”が増殖しているように感じた。このケースにとどまらず、さまざまな場面でカオナシ族は出現している。そして彼らの存在が、組織を弱体化させてしまっているのだ。