被災時にも活躍する
オーラルケア用品

 肺炎や老化のリスクを軽減するためにも、被災時も日常に近い口腔ケアは必須。そこで、いざというときのために「防災リュックに入れておきたいオーラルケア用品」についても聞いた。

「歯ブラシセットや歯間ブラシ、デンタルフロスなど一般的なケアグッズがあれば問題ありませんが、選び方にポイントがあります。まず、備蓄用の歯ブラシは普段使っているものよりも一段階ブラシが柔らかいものを選んでください。被災した歯科衛生士の方から聞いた話では、避難中は環境の変化で歯茎が腫れやすくなるので、歯ぐきの刺激を減らす柔らかい歯ブラシが適しているそうです」

 デンタルフロスは、柄が付いている「ホルダー付きフロス」がおすすめ。口の中に手を入れずに歯間の掃除できるので、手が洗えない環境でも使いやすいという。

「水が不要な『口腔ケアシート』は、断水中も気軽に使用できます。そのほか、ドラッグストアなどで売られている『液体歯みがき』なども、被災時に役立ちます。液体歯みがきで口をすすいでからブラッシングをすれば、普段の歯みがきと同じケアができ、最後に口内を水ですすぐ必要がありません。液体歯みがき3年は問題なく使えるとされているので、3年が経ったら備蓄しているものを日常使いにして、改めて備蓄用に買い足しましょう」

 そして、入れ歯を使用している高齢者には「避難所でも入れ歯の洗浄をしてほしい」と中久木氏は話す。

「入れ歯の洗浄は、夜に入れ歯を外して洗い、専用の洗浄剤を溶かした 水に漬け置きをして除菌しながら寝る、という方が多いかと思います。ただ、避難所においては置き場所がないため、持って歩かなければいけません。しかし、一般的な入れ歯ケースは密閉されておらず水が漏れてしまうので、密閉できるタイプの食品保存容器を防災リュックに入れておきましょう」

 しかし、周囲の人に入れ歯であることを知られたり、入れ歯を外した姿を見られるのを嫌がったり、また、余震が続くあいだはいつでも逃げられるように、などの理由から入れ歯を口の中にはめたまま過ごす被災者も多い、と中久木氏。その場合は「泡タイプの入れ歯洗浄剤」の活用もおすすめだ。

「プライバシーが確保できる洗面所がある場合、泡タイプなら泡をかけたらブラシでみがいて水ですすげばまた口に入れられるので、入れ歯を外した姿は見られません。また、余震が発生したときに逃げる際の心配事も減るでしょう。支援物資としてもお届けしてご説明しますが、泡のハンドソープのようにも見えるので、ご家族や支援者の方々にもサポートをお願いできれば助かります。また、認知症の方など、入れ歯を誰かに預けるのを嫌がる方もいますが、目の前で洗ってすぐにお返しすれば受入れてもらえる場合もあります」

 被災時も普段と変わらない口腔ケアを行えるよう、防災リュックのレパートリーにオーラルケア用品を加えよう。

「東日本大震災後に行われた調査では『一週間ほどは歯をみがくことさえ思いつかなかった』という声もありました。津波や地震ですべてを失い、大きなショックを受けている方々に、どのように口腔ケアを促していくかが、現地に行く歯科支援者としての重要な課題でもあります」

 地震に限らず、大雨や台風、土砂災害などさまざまな災害に見舞われる日本の人々。被災者が「その後」を生き抜くためにも、口の中から健康リスクを下げるのがベストだ。

<プロフィール>
中久木康一
東北大学 大学院 歯学研究科 災害・環境歯学研究センター 特任講師
歯科医師。東北大学大学院歯学研究科災害・環境歯学研究センター特任講師。日本災害時公衆衛生歯科研究会世話人。著書(分担執筆)に『災害時の歯科保健医療対策 連携と標準化に向けて』(一世出版)、『繋ぐ―災害歯科保健医療対応への執念』(クインテッセンス出版刊)、『災害歯科医学』(医歯薬出版)、『災害歯科保健標準テキスト』(医歯薬出版)など。