能登半島地震発生から11カ月がたった。この間も、能登半島は水害に見舞われるなど自然の脅威にさらされ、多くの人が不安な日々を過ごしている。災害によって家を失くした人々が身を寄せる避難所では、さまざまな物資が不足し、行動を制限された日々を送らなければならない。しかし、極限状況のなかでも“口腔(こうくう)内のケア”を怠ると、その後の生活に暗い影を落とすリスクがあるという。(清談社 真島加代)
被災地での水不足が
健康リスクを高める
被災地の避難所では、多くの人々が身体的、精神的に大きな負担を抱えながら暮らしており、避難所での生活が長引くほど、健康面の不安が膨らんでいくという。歯科医師として被災地に足を運び、歯科支援体制をサポートする中久木康一氏は、現地の状況について次のように語る。
「建物の倒壊などでライフラインが絶たれた被災地では、さまざまな物資や支援が不足します。なかでも、水不足による健康面と衛生面への影響は想像以上。飲料水が手に入らないと歯みがきもできず、生活用水が出に入らないとトイレも流せず体を拭いたりもできず、”体を清潔に保つ”のが困難な状況です」
被災地には支援物資として歯ブラシや歯みがき剤も届く。しかし、被災者は「口をゆすぐためだけに水を使うのはもったいない」と感じ、歯みがきを控える傾向があるという。
しかし、中久木氏は「長期間、口腔ケアができない状態が続くと、疾患リスクが高まる」と話す。
「被災地は、食事の栄養が偏ったり、睡眠が不足したりとストレスフルな環境です。そうしたなかで、長期間口の中が汚れたままになると、歯の疾患だけでなく、口内で増えた細菌が血管や肺に入り込み、誤えん性肺炎や感染性心内膜炎などを引き起こす危険があるのです。そのため、避難所では口腔ケアが重視されつつあります」